【平賀充記の若者解体新書~キーワードで読み解くZ世代のトリセツ】⑧「24時間戦えますか?」ってなんスか?

時間を奪われるのが最恐最悪のパワハラ

 「何十分も説教されるのが一番嫌かも…」。Z世代の若手社員に何が一番のパワハラかを尋ねたら、この答えに最も多くの賛同が集まりました。そりゃそうですよね。若者じゃなくても説教されるのは嫌なものです。

 しかし、その理由は意外でした。大半の若者から返ってきたのは「時間を奪われるのが最悪」という答え。てっきり、打たれ弱いと言われがちなZ世代にとっては、暴言を浴びせられたり怒鳴られたりする説教=パワハラかと思っていたのですが、それよりも時間を奪われることにハラスメントを感じると言うのです。

 これは新たな気づきでした。無茶な仕事を振られるのも、理不尽な指示を受けるのも、結局時間が無駄になるのが一番のダメージだと、彼らは考えているのです。逆に強烈な説教であっても、パッと終わるのであれば構わないとさえ言っていました。もちろん、これはひとつの例ですが、Z世代の若者が「時間」に対してとてつもなく大きな価値を見出している=#時間資本主義的な価値観を持っているのは確かです。 

コスパからのタイパ

 なにゆえ彼らは、そんなに「時間」を大切にしているのか。ビフォーコロナの頃を思い出してください。リーマンショック以降右肩上がりに景気が回復、人手不足が広がる中で長時間労働が横行しました。これを受け2019年には厳格な残業規制を含む働き方改革関連法案が施行され、加重労働に歯止めがかかりました。

 「同じ量の仕事を、昔より短い時間でやらないといけない。昔の人はいくらでも時間をかけられたが今は違う」。若者たちは、ある意味、否が応でも時間を気にしながら働く習慣を身につける必要に駆られているのです。

 しかし、彼らが働き方改革の文脈に乗っかる背景には、ワークライフバランス重視の価値観があります。SNSで何百人とか千人超というフォロワーとつながり、いくつものコミュニティに所属して、マルチに活動しているZ世代の若者は、オトナが想像している以上に忙しい毎日を送っています。仕事を効率よくこなし、自分がやりたい活動のためにどうやって時間を生み出すか。彼らは常に気にかけているのです。

 Z世代は、よく「コスパがいい」と口にしますが、昨今では「#タイパがいい」という言葉が登場しています。「タイムパフォーマンス」の略、いわば「時間コスパ」です。

倍速、ネタバレが当たり前

 タイパがいいとする代表例に、映画などの娯楽動画の倍速視聴があります(#タイパ科バイソク属)。2時間の作品を1時間で観るわけなので、たしかに「効率」はいいです。仕事で生産性を追い求めるならともかく、趣味や娯楽においてもタイパ意識が広がっているのです。

 確かに、YouTubeにNetflix、最近の流行りではオーディション番組と、いま娯楽動画はあふれ返っています。つまらない作品をつかまされて、時間が無駄になるのを避けたいという気持ちも分かります。逆に、何本もの駄作を観た挙げ句、自分にとっての傑作にたどりついたとしても、そこに喜びはありません。そういう回り道は、彼らにとって「タイパが悪い」からです。彼らの口癖は「外したくない」。回り道や効率が悪いことを恐れています。

 手っ取り早く重要作品を押さえたい、ポイントを知りたい。こうしたタイパ意識が高じた結果、ネタバレ視聴という風潮も出てきました(#タイパ科ネタバレ属)。ネタバレ視聴とは、内容をダイジェストで紹介している動画、もしくはまとめサイトや口コミサイトのあらすじを読んで結末まで把握したうえで、価値があるかどうかを判断してから視聴するというもの。

 「犯人が誰なのかあらかじめ知った状態で観たい」とか「自分が推している登場人物がどうなるのか分かった上で観たい」などといった声は、Z世代の若者から実によく聞かれます。え?結末知ってから観るの? オトナ世代からすると、“ちょっと何言ってるか分かんない”と、素でサンドイッチマンのツッコミを入れてしまいそうです。

 結末が分からない「ドキドキ感」より、せっかく費やす時間を後悔しない「安心感」が勝る。いかに自分が投資する貴重な時間をできるだけ有益に使いたいと思っているか。Z世代の時間への執着心を端的に示しています。

トリセツ…24時間戦えますか時代との決別

 誰が犯人か知ったうえで刑事モノとか観てなにが楽しいんだろうか。時間をムダにしたくないにもほどがある。確かに、Z世代の時間に対する意識は極端な気もしますが、一方で我々オトナ世代の時間概念にも自問自答すべき点はあるかもしれません。昔はとにかく長時間働くことが美徳であり正義でした。「24時間戦えますか?」とか「5時からオトコ」という健康ドリンクのCMがバンバン流れていました。

 「5時からオトコ」というのは、5時までは適当に仕事をこなして、会社終わりの5時から元気になるサラリーマンのこと。Z世代の若者から、「じゃ、5時まではなんだったんすか?」とツッコミが入りそうです。当時はスマホなんかないから、一回会社を出ればなにをしようが見つからない。夕方までうまくサボりつつ、夕方会社に戻って残業して頑張ってるアピール。こんな営業マンがうようよいました。当時の評価は仕事量。たくさん働ける(と見える)馬力は、出世に必須の時代でした。

 つまり5時からオトコは、24時間戦う前提社会における必然的ワークスタイルだったのです。自分の働く時間を薄く伸ばしていくことで残業代も増えますから、収入の考え方も“グロスでいくら稼いだか”を基準とする「年収脳」が育まれます。こうなると年収の額に重きが置かれすぎて、その年収を得るために何時間を費やしたか、は語られません。これはこれで、相当歪んだ時代だったように感じませんか。

 一方でZ世代は、“稼ぐのにどれだけ時間をかけたか”で考える「時給脳」です(#年収脳より時給脳)。働く時間を濃ゆく濃ゆくして効率よく稼ぎたい。極めて真っ当な感じもします。残業したがらない若者を揶揄するまえに、残業前提で仕事を組み立てない。働く時間に関しては、オトナ世代のパラダイムチェンジも必要なんだと思います。自戒の念も込めて言ってます。


■平賀充記(ひらが・あつのり) 多様な働き方研究家。リクルートにて、FromA、タウンワーク、とらばーゆ、ガテン、はたらいくなど、主要求人メディア編集長を歴任、メディアプロデュース統括部門執行役員を経て「ツナグ働き方研究所」主宰。専門分野や若者マネジメントやリモートコミュニケーションなど。「東洋経済オンライン」「読売オンライン」など寄稿多数。近著に「神採用メソッド」(かんき出版)「なぜ最近の若者は突然辞めるのか」(アスコム)がある。

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