【平賀充記の若者解体新書~キーワードで読み解くZ世代のトリセツ】⑩気が利く=超能力レベルにムズイっす

そのくらい察してほしい

 午後の会議に使う資料の印刷を、職場の若手社員にお願いした。プレゼン用の企画資料と、その根拠となる詳細データ資料の2種類を10部ずつ。できあがった資料を若手が持ってきてくれた。

 「あ…これ、全部A4で印刷しちゃったの? データの資料は文字が小さいから、A4だとめちゃくちゃ読みづらい。できればA3で印刷してほしかった…」。昔のように怒鳴り散らすわけにもいかないが、堪えきれず、つい、こうつぶやいてしまう…。

 残念ながら、このつぶやきを聞いた若者の言い分は100パーセント、「印刷しておいてと頼まれたから、指示された仕事をやった。印刷サイズの話は聞いてない。それならそうと言ってくれれば、サイズを変えて印刷するのに…」という感じだと思います。

 そのくらいは察してほしい。しかし頼んでないのはこっちだし…。相当、気が強い上司でないかぎり、モヤモヤしながらも自分でA3に拡大コピーを取り直す羽目になることでしょう。

 オトナ世代からすると、自分の作業の手間が増えたことより、頼む仕事に対して、一から十まで説明しなきゃ分からないのか、という残念な気持ちのほうが強いはず。

 しかし、そんなイライラモヤモヤのオーラが若者にも伝わってしまい「なんか、こっちが悪い的な空気なんですけど…」と、逆にムッとされる。

 資料を印刷するといった簡単な作業を頼んだだけだったのに、職場の温度が一気に冷え込む瞬間です(#世代間寒冷前線)。

他者への想像力

 「フォークの握りはこっちからは教えないよ。見て盗めばいいんだよ。それでも分からなくて、それでも知りたきゃ自分から聞きに来い」。その昔、往年のプロ野球選手が新聞のインタビュー記事で、自分の決め球について、こう語っていた記憶があります(#昭和は仕事を見て盗む)。

 これは極端な例かもしれませんが、確かに、ひと昔前は、丁寧に仕事を教えてもらえることは少なかったかもしれません。上司や先輩から仕事を振られる時も、「とりあえずやってみてよ」といった雑なオーダーがまかり通っていました。若手は先輩のやり方を見よう見まねでやって覚えていくのが、ある意味当然でした。

 上が何を求めているのか、何を考えているのか、常に先回りして考えながら仕事をする。そんな「想像力」は、社会人としての必須スキルだったのです。

 こんな感じで仕事をしてきた我々からすると、「そのくらい察してほしい」と感じるのは、当たり前の感覚です。そんなに難しいお願いをしているつもりではなく、「ちょっと気が利く」=「仕事がデキるの第一歩」というくらいの気持ちでしょう。

それって超能力の話ですか?

 しかし、「そのくらい察してほしい」と感じてしまう我々の「そのくらい」は、若者にとっては「そのくらい」よりも遥かに高度なレベルなようです(#そのくらいってどのくらい?)。

 つまり、冒頭のケースのような“資料の印刷をめぐる寒冷化現象”は、「気が利く」と「気が利かない」のレベル感に対する大きなギャップが原因なわけです。

 我々からは、Z世代の若者は「気が利かない」ように映る。しかし一方では、若者は、オトナ世代から求められる「気配り」に対して「それって超能力の話ですか?」くらいに乖離した感覚なのです。

 なぜ、ここまでギャップが広がっているのか。それは、デジタルツールの進化と関係があるように思います。インターネットが発達し、検索すればすぐに答えにたどり着けるようになった現代では、想像力を働かせながら考える必要が減ってきました。

 その昔、人類が言葉を発明し、また文字を発明したことで、それまでもっていたといわれる第六感が退化したと言われます。例えば、魏志倭人伝に「卑弥呼は予知的な能力や暦や占術などを駆使し、天候・地変を言い当て人々を守ることで国を治めていた」という記述があるように、霊能力や超能力と言われる力は、太古の人間には大なり小なり備わっていたとされます。それが文明の進歩とともに失われていったのです。大袈裟に聞こえるかもしれませんが、これと同じようなインパクトが現代に起きているんじゃないでしょうか。

 デジタルリテラシーの進化によって、若者の五感が退化している。彼らを日々観察しながら、筆者はこう感じています。彼らに言わせれば「阿吽の呼吸」などは、完全にテレパシーの世界です(#リテラシーVSテレパシー)。

トリセツ…仕事のゴールまでを想像してもらう

 とはいえ、時代が進もうが、技術が進化しようが、仕事を進めるうえでは、やはり「ちょっと気が利くこと」が重要であることには変わりません。

 そういった観点に立ったうえで、今回のケースを見直してみましょう。この若手社員は、資料を印刷することが「業務のゴール」になってしまっていました。この資料がどういうシーンにおいて、何のために使われるのかという「本来のゴール」を想像するという視点に欠けています。この想像力が働きさえすれば、印刷をお願いした上司がどんな状態を求めていたのかまでイメージすることは難しくなかったはずです。

 言われたことをそのままやるのではなく、その仕事の意味を解釈し、咀嚼してから動き出すのが、本質的な進め方であること。そのためには、この仕事はなんのためにやるのか、仕事の本来のゴールはどこか、を想像する必要があること。これをきちんと説明することで、一から十までではなく、一から六くらいまでの説明で動いてくれるようになるんじゃないでしょうか。

 仕事の全体像が見えれば、仕事へのスタンスも変わってくるはずです。


■平賀充記(ひらが・あつのり) 多様な働き方研究家。リクルートにて、FromA、タウンワーク、とらばーゆ、ガテン、はたらいくなど、主要求人メディア編集長を歴任、メディアプロデュース統括部門執行役員を経て「ツナグ働き方研究所」主宰。専門分野や若者マネジメントやリモートコミュニケーションなど。「東洋経済オンライン」「読売オンライン」など寄稿多数。近著に「神採用メソッド」(かんき出版)「なぜ最近の若者は突然辞めるのか」(アスコム)がある。

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