【平賀充記の若者解体新書~キーワードで読み解くZ世代のトリセツ】⑥名刺の数は多いほどいい症候群

ギグワーカーの台頭

 昨今、「ギグワーカー」という働き方が注目を集めています。コロナ禍で一気に普及したウーバーイーツ配達員は、その代表例です。ギグとは、そもそもジャズやロックのミュージシャンが一晩限りの契約でライブ演奏に参加することを指していました。そこから転じて、雇用されるのではなく単発的に働く人たちを「ギグワーカー」と呼ぶようになった模様です。

 かといってギグワーカーだけで生計を立てるというより、たとえば「サラリーマン兼ブウーバーイーツ配達員兼ユーチューバーといったように、本業を持ちつつ#ギグるというスタイルが主流のようです。

 ひとつの会社に依存せず、ひとつの仕事にとらわれず、空いた時間を使って複数の仕事をこなしていくような働き方ができるようになったのは、それを後押しする環境があるからです。

 データ入力やテープ起こしなどの仕事を網羅するクラウドソーシングの普及、ユーチューバーやインスタグラマーといったインフルエンサーという職業の広がり、前述のウーバーイーツに代表されるフードデリバリー。またこれらの仕事と簡単にマッチできるサービスの登場や進化。我々オトナ世代からするとイメージしにくかったような“ギグギグできる選択肢”が、Z世代のまわりにはたくさん転がっています。

社に所属するだけでは不安

 またコロナ禍も、この流れに拍車をかけています。筆者が主宰するツナグ働き方研究所では、昨年、Z世代を対象に「コロナ禍を経験したうえでのキャリア観」についての調査を行いました。「自身のキャリアを考えた際、どんな働き方をしたいか」という質問に対して、安定派(安定した1社でずっと働きたい)は41.1%で、転職派(複数の会社で様々な知識を付けたい)は8.2%となりました。

 景況が不安定な時代は、働き手に保守的な志向が高まります。よく“すぐ辞める”と言われるZ世代であっても、一気に環境を変える「転職」より、1社に所属し続ける「安定」を希求するとしてもおかしくはありません。

 一方で驚いたのは、副業派(1社をコアとしながら、空き時間に副業をして収入を安定化させたい)と複業派(1社にしがみつくのは不安だから、複数の会社で働きたい)を合わせたスコアが37.6%に上ったこと。転職派を大きく上回り、安定派に迫るスコアとなっていました。

 空き時間に“ギグギグ”しながら、あるいは何枚も名刺を持つパラレルワーカーとして“パラパラ”しながら生きていく。この調査からは、若者の「複数社兼業」志向の高まりが浮き彫りになっています。

いくつ肩書を持っているか

 いくつもの会社組織に所属することに抵抗がない。こうした#パラパラ志向も、実はSNSが大きく影響しています。SNS上では、ご存じのように会ったことのない人とでも容易につながることができます。開放されたオンライン空間の中で育ってきたソーシャルネイティブのZ世代は、この「フラットでオープンなヨコ社会」が価値観のベースになっています。だからなんの躊躇もなく、ごく自然な感覚で広く多くのコミュニティに出入りできるのです。

 というか、むしろZ世代は、“所属するコミュニティが多ければ多いほどいい”と考えているフシさえあります彼らの中には、実にたくさんの肩書を持っている若者もいます(#多ミュニティ時代)。名刺交換の際、「実は、こんなこともやってまして…」とその肩書が記された名刺を何枚も何枚も渡してくれる若者たちの表情が、一様にやや自慢気です。まるでオトナ世代に見えないどこかの地下社会で、「#全日本いくつ肩書を持っているか選手権」が開催されているんじゃないかと思うほど。

 本連載の④キャラ多面体の回でも述べましたが、いろんなキャラを演じながら生きているZ世代として、複数の肩書を持っているというのは同じ価値観の範疇なんでしょう。その昔、ミル・マスカラスというメキシコ出身のプロレスラーがいました。試合ごとにマスクを変えることから「千の顔を持つ男」 と呼ばれましたが、まさに今の若者は#マスカラス・シンドロームなのかもしれません。

トリセツ…職場のプラットフォーム化思考

 ひと昔前、「モーレツサラリーマン」や「24時間戦えますか?」などと言ってがむしゃらに働いていた世代にとっては、職場と家庭が生きる場所のほとんどでした。そのため職場の人々とは非常に結びつきが強く、公私を共にすることも珍しくありませんでした。

 そんなオトナ世代からすれば、このように様々なコミュニティに属しながら、あるいはギグギグパラパラ働きながら生きている若者は、理解不能でしょう。職場の若者が飲み会に付き合わないのは、単に冷めているからだけではありません。彼らには、職場と同じくらい大事な付き合いが他にもたくさんあるのです。

 自社が払うお給料をまるでベーシックインカムのように捉えているんじゃないか。確かに、会社側からすると、こうした若者はたまったもんじゃないかもしれません。管理を強めて人材を囲い込むしかない。そう考えるのも理解はできます。

 しかし、そのやり方ではZ世代の若者はついてきません。出世して肩書の位を上げるより、たくさんの肩書を持っているこにステイタスを感じるのですから。むしろ様々は社外活動を通して育まれる個人の知見を自社で活かしていこうという思考が重要。こうした企業スタンスに、彼らの帰属意識は刺激されるんだと思うのです。要は北風と太陽です。

 だとしたら、これからの社会では、他社とZ世代人材を共有するくらいの意識でいるほうがいいかもしれません。縛り付けずに、自社にとっても他社にとってもいい結果をもたらしてくれる。会社間や職場間を自由に行きかうZ世代を上手にシェアすることが、企業として勝ち残る重要なポイントになるのではないでしょうか。


■平賀充記(ひらが・あつのり) 多様な働き方研究家。リクルートにて、FromA、タウンワーク、とらばーゆ、ガテン、はたらいくなど、主要求人メディア編集長を歴任、メディアプロデュース統括部門執行役員を経て「ツナグ働き方研究所」主宰。専門分野や若者マネジメントやリモートコミュニケーションなど。「東洋経済オンライン」「読売オンライン」など寄稿多数。近著に「神採用メソッド」(かんき出版)「なぜ最近の若者は突然辞めるのか」(アスコム)がある。

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