【自分と先祖様の防災サバイバル術】⑤ご先祖さまの墓、仏壇

被災でも失われぬ供養心 進む免震、耐震技術

お墓、仏壇、位牌…。被災したときに、先祖・先人の魂の〝依り代〟が無事かどうかを考える人が、実は多くいる。日本人が持つ供養の気持ちが具現化される。

 気仙沼市波路地区。突き出した岬の先に、「海の殉難者慰霊塔」が建つ。地元の漁業関係者を中心に、海難事故で命を落とした約600人の霊が眠っている。周囲には地域の共同墓地もあった。

 2011年.津波は聖なる場所を無残に破壊した。慰霊塔は崩壊こそ免れたが激しく傷み、共同墓地では重さ数百キロもある墓石が何十メートルも流された。割れた墓石もある。

 流された墓石は集められ積み上げるといった応急処置は施されたが、生活の再建を優先せざるを得ず、復興は後回しとなっていた。

 東北沿岸にある墓地はどこも似たような被害を受けた。阪神・淡路大震災(1995)、熊本地震(2016)、さらに人的被害が軽微だった地震でも、墓の倒壊は相次いでいる。

 ご先祖さまも、ゆっくり眠っていられないのだ。

■「耐震」と「免震」で

 だが、日本人が持つご先祖さまや先人たちに対する供養の念は篤い。

 気仙沼市波路地区では震災10年を前にした20年12月、修復された「海の殉難者慰霊塔」と、古くからの墓石が手厚く建て直された(18年に再建)光景がある。固められた地盤の上に、墓地区画の整備も進んでいる。さまざまな議論があったが、「供養の場を廃れさせてはならない」という海難者や震災犠牲者たちに対する思いが、再生を後押したという。

 大きな地震が相次いだこともあり、お墓の地震対策は急速に進化を遂げた。 

 対策の柱となるのは「耐震」と「免震」。いずれも震度7クラスの揺れに耐えられるという。

 「耐震」は、墓石を強固に固定する方法だ。台座と上部といったパーツごとを固定していく。墓石の中心にステンレス棒を貫通させる方法もある。

 「免震」は、現在の主流になった方法で、工期が短く、10万円程度で収まることもある。開発された、「石専用の接着剤」でパーツをつなぐ方法のほか、ゲル状の免震材(シート)をパーツの間に挟んでいく方法もある。

 ほかに「お墓の地震保険」をかける防災手段もあり、聞けば石材店で案内してくれる。

■「位牌持ち避難」4・7%

 福島県会津若松市にある「アルテマイスター保志」。全国にネットワークを持つ仏壇、位牌の製造販売大手だ。

 保志には、各地で地震があるたびに仏壇や位牌の修理が持ち込まれる。多くが先祖代々受け継がれてきた伝統的な仏壇だという。

 阪神・淡路大震災のときには、「扉が外れた」「柱が折れた」「ゆがんだ」など、仏壇の修理依頼が1000件以上もあり、すべての修理が終わったのは震災10年後だった。

 東日本大震災では、位牌の修理依頼が多かった。「津波に流されたが、見つけた人が戒名をたどって届けてくれた。そんな位牌を粗末に扱えない」という修復依頼が何件もあったという。

津波で流された位牌。当時は持ち主に戻った位牌の修復依頼が多かったという=2011年4月、宮城県東松島市

 保志康徳社長は、「それぞれのご依頼からは、先祖に対する深い思いが伝わってきます」と話している。

 実際に東日本大震災では、こんな悲劇があった。震災から1年以上たった12年6月13日午後、宮城県石巻市の大川地区で発見された車から2人の遺体が見つかった。車内には毛布、そして位牌が見つかった。

 2012年に内閣府が被災者1万3000人を対象にした調査では、4・7%もの人が位牌を持って逃げたと回答している。

■家具同様の防災を

 仏壇の世界でも、防災の試みは多数ある。

 新しい仏壇であれば、「重ね仏壇」には多くの場合、上台と下台の間に「ダボ」と呼ばれる細長い棒や板をはめ込んだ〝耐震用仏壇〟が流通している。

 床への直置きや、床の間に置かれる仏壇は、家具と同様の震災対策が必要だと考えればいい。L字型金具で柱とつないだり、天井との間に「つっかえ棒」を入れたりするほか、壁面とベルトで固定する方法もある。上台と下台の間、あるいは床との接地面に緩衝シートを挟む方法もあり、それぞれ仏壇専用の震災グッズとしても販売されている。

■「接着剤、ゲルシートで備えを」日本石材産業協会・森田浩介会長

墓石の防災対策について、約1200の石材関連業者で組織する日本石材産業協会の森田浩介会長に聞いた。 

 ー過去の地震ではどのような被害がありましたか?

 圧倒的に多いのが「倒壊」です。上に積んでいる石が倒れたり、周囲の柵が壊れてしまうケースです。

 石が傷ついたり、欠けたり、ひどい場合には割れてしまうこともあります。阪神・淡路大震災以降、大型地震が頻発していますが、そのたびにお墓にも被害がでています。

森田浩介会長

 圧倒的に多いのが「倒壊」です。上に積んでいる石が倒れたり、周囲の柵が壊れてしまうケースです。石が傷ついたり、欠けたり、ひどい場合には割れてしまうこともあります。阪神・淡路大震災以降、大型地震が頻発していますが、そのたびにお墓にも被害がでています。

 とりわけつらいのは、墓石が隣の区画に倒れてしまい、被害が隣の墓まで及んでしまうケースですね。

津波で被災した墓だが、花がいけられ供え物がされていた(2011年、宮城県内)

 ー協会では、被災した墓地の復旧ボランティア活動もされていますが。

 東北には何度もボランティアが入りましたし、最近では熊本地震(2016年)、長野の水害(19年)などでも重機を墓地に持ち込んで応急処置にあたりました。散乱した墓石をもとあった区画に戻すことがボランティア部隊の仕事です。それによって通路が確保されますから、のちの復旧作業が行いやすくなります。大切なお墓の復興につながればと思います。

 ーお墓の形(和型、洋型)によって被害の違いはありますか?

 洋型のほうが重心が低いので、揺れには強いということにはなるのでしょうが、実際には大きな差はないようです。

 むしろ墓を建てた年代によって差がでています。30年以上前に建てられたお墓は、石と石との接着が劣化していることが多いですので被害が甚大です。

 最近に建てられた墓は、能力が向上した最新の接着剤が使われているだけでなく、基礎工事や地盤改良も丁寧にしていますので、よほど強い揺れでないと倒壊はありません。

 ただ、揺れではなくて、土砂崩れや津波に襲われた場合には、墓の形や新旧も関係なく地盤ごと被害がでてしまいますね。

 ー耐震対策にはどのようなものがありますか?

 古いお墓であれば、墓石を分解して、継ぎ目に専用の接着剤を流し込んだり、揺れを吸収するゲル(ゼリー状の免震材)シートを入れたりする方法が主流になっています。工期は1日程度、費用も10万円程度(大きさなどにより異なる)で済みます。

 石と石をピンで固定したり、内部にステンレス棒を通して強化したりする方法もあります。上部、下部を分けないで、ひとつの石で加工する方法もあります。

 新しく墓を購入するのであれば、「地震対策はどうなっているか」を聞いてみてください。しっかりした業者であれば、継ぎ目の説明、地盤の対策方法などをきっちりと説明してくれるはずです。

 お墓は祈りの対象であり、家族の心の拠り所です。被災した状態の墓でも、手を合わせに訪れる人が多くいます。災害が多い時代ですが、そんな光景に接すると、改めてお墓の大切さを感じますね。

(次回は特別編 ペットも家族)

※『終活読本ソナエ』2021年新春号より

★「自分と先祖様の防災サバイバル術」過去の記事はこちら★

シニアと防災①

シニアと防災②

シニアと防災③

サバイバル術➀事前の備え

サバイバル術②災害発生・避難

サバイバル術③避難生活

サバイバル術④感染症と介護 

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