【自分と先祖様の防災サバイバル術】シニアと防災①

東日本大震災から3月11日で10年を迎える。死者1万5899人、行方不明2527人。その多くが災害弱者であるシニア層だった。シニアのための「防災サバイバル術」を考えてみよう。

データにみる「災害弱者」 高齢者が遭遇した困難

高齢者は「災害弱者」である。10年前の3月11日以降、廃墟と化した被災地には、突如降りかかってきた困難に直面する、多くの高齢者の姿があった。

2011年3月16日、外は雪だった。避難所には厚着をした高齢者の姿が目立った(岩手県、釜石市民体育館)

 『終活読本ソナエ』所属の赤堀正卓(52)が東日本大震災の被災地に入ったのは、発生から3カ月が過ぎた、6月中旬のことだった。

 地震発生時、産経新聞社会部のデスク(現場の記者に取材指示を出したり、出された原稿を取りまとめたりする役)だったことから、地震発生直後から震災報道に携わっていたが、現場には行けずにいた。

 3月15日過ぎのこと。翌日の紙面内容を決める会議で、編集局幹部から「何か明るいニュースを掲載できないか。当日、生まれた赤ちゃんの話題とか、何日も海に流されながらも救助されて、九死に一生を得た人の話とか…」と要望が出された。

 それを現場にいる記者に電話したときのことを、いまでも忘れられないという。

 「何か希望が湧くような明るい話はない? 避難所にいけば、何か明るい話題があるだろ」

 そんな赤堀の振りに、激しい剣幕でまくし立てたのは、陸前高田市にいた後輩記者、豊吉広英(47)だった。

 「希望なんかどこにもありませんよ‼ こっちは、瓦礫の街にいるんです! 遺体があちらこちらにあるんですよ。どこに行方不明者がいるかわからないから、瓦礫の上を歩くことすら恐ろしいんです」

 「避難所だって、じいさん、ばあさんばかりで、みんな疲れ切っていて話しかけられませんよ。ちょっとでも元気のある人は、行方不明者を探しにいくか、瓦礫となった自宅を片付けにいっています!」

 赤堀には返す言葉がなかった。

瓦礫の上をさまよう高齢者

 あれから10年。豊吉は振り返る。

 「被災地に入り、いったい何を伝えればいいのか分からないぐらいの惨状に圧倒されている自分がいました」

 被災地で遭遇した、忘れられないシーンがあるという。

 「陸前高田の瓦礫の山の上をさまよっていた、ひとり暮らしのおじいさん。80歳前後にみえました。『アパートに通帳と印鑑を残してきちゃったから、探しに来ている』と言う。けれども、アパートは津波で跡形もない」「愕然。絶望。呆然。無駄な行動とはわかっていても、生活のために通帳をみつけなければ…。老人の複雑な表情は10年経ってもよく覚えています。被災高齢者が突き落とされた環境の厳しさを実感しました」

あえて避難所暮らしを選択

 6月になり、業務のローテーションが順調に機能し始めたことから、念願の被災地取材をした赤堀。現場の壮絶さに圧倒された。記者になって初任地は盛岡だった。若いころ取材で何度も訪れた街並みは廃墟となっていた。重油臭と焦げ臭さが残る街中を、瓦礫を積んだトラックが土ぼこりを巻き上げて走っていた。

 豊吉同様、彼も被災地に置かれた高齢者の苦悩ぶりを目にしている。

 死者、行方不明が831人となる壊滅的な被害を受けた宮城県南三陸町。避難所となっていた学校の体育館を訪れた。3カ月後も100世帯近いと思われる家族が避難していた。内部での取材は断られたが、たまたまその日は、昼の30分間ほどを利用して、陸上自衛隊の音楽隊がミニコンサートを開いていた。多くの人が体育館から出てきていた。

 終盤に『故郷』(文部省唱歌)が演奏された。隣にいたおばあさんが(82歳と言っていたのを記憶している)があふれる涙を手の甲でぬぐっていた。

 終了後、声をかけると堰を切ったように身の上を語り始めた。震災前に夫に先立たれ、ひとり暮らしをしていた。東京で暮らす子供たちがおり、「来ないか」と声をかけてくれるが、知らない町へ行くよりも顔見知りが多くいる避難所生活を選んでいるという。

 「仮設住宅にも移れるようだし、家も修理すれば何とかなるかも」と気丈だった。

 とはいえ、「演奏を聴いていたら、思わずね。生まれてからずっと住んでいた故郷がこんなになっちゃって」「歳も歳だし…。これからどうなるんでしょう。何から考えたらいいのか」。健康への不安、住居への不安、生計への不安、あらゆるものが老いた身に襲いかかっていた。

 あれから10年。連絡を取ろうと思ったが、電話も通じない。

(シニアと防災 あの日の現場②につづく)

※『終活読本ソナエ』2021年新春号より

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