【坂口孝則の目からウロコの経済学】小売店はVRで次の「夢」を見るのか

VR「ホストクラブ体験記」~コロナ禍でリアルの代替に

 先日、某社の有名女性社長からホストクラブに行こう、と強く誘われた。私は男性である。ホストクラブに誘う性別を間違えている。そうすると場所はVR(仮想空間)上。客には男性も多いのだとか。しかも、ホストも来店者もアバター(アニメ上の分身)。あるVR空間上でこっそりと開店しちゃえるという。まるで闇営業のようではないか。

 それにしてもホストクラブは病みつきになるとかで、お気に入りのホスト二人の特徴を熱く語ってくれた。「壁ドンとかやってもらったら、ほんとうにハマってしまって、私の人生はVRホストクラブ抜きには考えられない」とのことだ。

 ホストへのギャラは、お金の代わりに、ホストごとに公開されている「Amazonほしいものリスト」で何かを買って送ってあげるという。これならばホスト側も匿名が可能だし、さらには住所も客側に知らせる必要もない。誰もが送ってあげるわけではないものの、そこはホストも半分は趣味でやっている、という。

 そのホストクラブに来店するためには「VRChat」というソフトをインストールせねばならない。そこでさっそくFacebookが展開する人気のVR機器(ヘッドセット)である「Oculus Quest 2(オキュラス・クエスト2)」を購入。色々と実験してみた。

人気のOculus Quest 2

 正直にいえば驚いた。これほど没入感があるとは想像しなかった。人間の脳を騙すのは簡単なのか、たしかに私の目の前には新たな世界が広がっていた。ゲームも臨場感を味わえる。遊びではなくマーケティングだと自分に言い訳をして、何種類かのゲームを買った。「Vader Immortal」というスター・ウォーズを舞台にしたゲームでは、ダースベーダーから睨まれて「うわああ」と声を出し家人を呆れさせた。

 そして、VR上には出会いがたくさんある。ホストクラブはあくまで一例で、その他、さまざまな人種・国籍・趣味人たちと出会うことができた。単に暇人同士でたわいもないおしゃべりをするだけでもいい。

 コロナ禍で私は実世界で直に触れ合うことのなかった対人のコミュニケーションを埋め合わせるかのように、さまざまな出会いを楽しんだ。リアルで交わらないぶん、VR上で人々が交流するとすれば消費の舞台も移行する可能性がある。少なくとも無視できない空間になる。たとえば、世界にまったく新しい国ができたようなものだ。実際に、リアル店舗の代替として、次のメシのタネを探す企業たちがこのVR空間に進出している。

伊勢丹、ヨーカドー、資生堂…続々と出店

 VRといっても、前述のようにVR機器を使うものと、スマホなどのアプリを使ったりブラウザを使ったりするものがある。有名なのはバーチャルマーケットで、3Dのアバターや3Dモデルなどが購入できる。ここでは有名自動車メーカーやディズニーストアなども出店して話題になった。これらのVR展示会や、VRショップはVR機器からでも、あるいはパソコンからも入場でき、たとえば気に入った商品があれば商品の販売サイトへ誘導され、そのまま購入する仕組みだ。

 そして、このところ、さまざまな企業にVR出店が目立ってきた。期間を限定するものも多いが、有名なところを順不同でいえば、伊勢丹新宿本店、大丸松坂屋、イトーヨーカドー、資生堂、コーセー、アットコスメ、アルペンなどがある。

 いくつかに行ってみた。そのなかでも話題になった伊勢丹のVR(REV WORLDS)は次のようなものだった。まずアバターは最寄りの新宿駅東口に到着するところからはじまる。そして、あえて伊勢丹入り口まで歩くことで、百貨店に入る前のワクワク感を演出し、さらにアバターの操作方法を学習する作りになっている。

 私が訪問したのは、緊急事態宣言の真っ只中のゴールデンウイーク。ブランドの数はまだ寂しいものの、アパレルブランドではバーチャル上の接客も可能だった。

伊勢丹新宿店のVR店舗。アパレルブランドではバーチャル接客も可能だ(筆者撮影)

 また、ワインショップなどもあった。

VRのワインショップで商品を物色するアバター(筆者撮影)

 品揃えが十分ではない売り場も見られた。しかし、それも試行錯誤中ということなのだろう。百貨店ビジネスはこのところずっと右肩下がりを続けてきた。これまでのように、立地と外商だけに頼るわけにはいかない。ネット通販と専門店に後塵を拝してきたのだ。打開策となるべく今後の奮闘を期待したい。

VRは低迷する百貨店ビジネスの起爆剤になるか(筆者撮影)

VR出店の「壁」になるのは…

 さて、コロナ禍で多くの出張がテレビ会議に変わり、出張時間が激減したので、私はVRの可能性を探ってみた。それは冒頭に書いたとおりだ。そこで現時点で私の思う課題を書いておきたい。

①VRの浸透度と客層

 私も誰かに会うたびにVRを勧めるようになった。そしてほとんどの人はVRの存在は知っている。しかし、まさに私がやったように、すぐさまVR機器を買った知人は一人しかいない。「認知」と「実践」の人数がかけ離れている。

 先ほど伊勢丹の例をあげた。百貨店はコロナ禍で苦しんでいるが、そもそも百貨店にやってくるような層にどれほど訴求するだろうか。客層は比較的に世帯収入の多い、やや高めの年齢層に属する女性たちと思われる。彼女らにVRアプリをインストールさせる、あるいはVR機器を頭に被せることができるか。ハードルは低くない。

②VRであることの意味

 先日、驚いたのはグッチがVRアバター向けのスニーカーを販売し人気を博したニュースだ。VRChat等のアバターが装着できる、いわゆるデジタルデータだ。1,400円くらい。装着には技術的な難しさもあるようだが、ここにはVRで販売するべき意味が感じられる。

 つまり、多くのVR店舗は、販売はVRであるだけで、リアルな商品をリアルな住所に届ける。これでは既存のEC業者との本質的な違いが弱い。3Dと2Dの違いはあるとはいえ、操作性は既存のEC業者が有する2Dのサイトが選びやすいケースもある。

 それに対し、グッチはリアルな世界とは別に、VRの住人にVRであるべき商品を販売している。

③VRの熱狂

 私が強く感じたのは、VRで熱狂する人(アバター?)たちの存在だ。そして彼らの熱狂は、VR上の他者とのコミュニケーションにおいてのみ感じられた。VR店舗もうまくできているものの、そこでは熱狂とまではいかない。商品を感じさせたり、試着できたりするものはある。ただ、それは結局のところ、リアルの完全な代替とはなっていない。

 むしろVRに集う人たちは、リアルの代替ではない、何か別のものを求めている。それはリアルで考えられない出会いやコミュニケーションだ。もしかすると、交流が大半で、ついでに商品の紹介や販売をするくらいがいいのではないだろうか。

VRに集う人たちはリアルの代替ではない「熱狂」を求めているようだ(本文とは関係ありません)

 もっとも取り組みは始まったばかりだから、これからのVR店舗には期待していきたい。

 ところで、リアルな世界ではいろいろな物理的や法律的な制約があり、店舗設計ひとつとっても困難がつきまとう。一方で、VRはなんでもありのはずだ。しかし、VR店舗を見ていると、実際の店舗を模したものばかりなのはなぜだろう。もっと大胆にこれまでの店舗への既成概念を壊してもいいのではないだろうか。

 私は、きっと販売側の既成概念打破こそが、VR店舗の新たな可能性を拓くと考えている。

■坂口孝則(さかぐち・たかのり) 経営コンサルタント。大学卒業後、メーカーの調達部門に配属される。調達・購買、原価企画を担当。バイヤーとして担当したのは200社以上。コスト削減、原価、仕入れ等の専門家としてテレビ、ラジオ等でも活躍。企業での講演も行う。著書に『調達力・購買力の基礎を身につける本』『調達・購買実践塾』『だったら、世界一の購買部をつくってみろ!』『The調達・仕入れの基本帳77』(ともに日刊工業新聞社刊)『牛丼一杯の儲けは9円』『営業と詐欺のあいだ』(ともに幻冬舎刊)など35冊を超える。

★【坂口孝則の目からウロコの経済学】過去の記事はこちら★

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