【坂口孝則の目からウロコの経済学】小売店のプライベートブランド=PB戦争を大研究!

■激化するPBの価格戦争

 経済回復への機運が高まるなか、それに水を指すように、メディアでは連日のようにガソリン高を報じている。世界的に需要が盛んになり原油が逼迫している。そして上昇はガソリンだけではない。

 食品メーカーは相次いで値上げを発表している。原油高によるパッケージ等のコスト増がある。くわえて、世界的な食糧の需要急増、天候不順による原材料高騰、コンテナ費用の上昇が重なった。

 その苦しい状況のなかで、イオンは2021年内のトップバリュ3000品目もの価格を据え置きするとした。生鮮食品や惣菜は対象外とはいえ、その他を抑える。セブン&アイ・ホールディングス、西友、ドン・キホーテ等も同様の姿勢を見せている。

 コロナ禍では百貨店とコンビニエンスストアが苦戦している。高級衣類の需要が減じてしまったことや、オフィスの近くの店舗での人流が抑えられたためだ。そのいっぽうで、食品スーパーは好調だ。家庭での調理を目的とした生鮮食品や、冷凍食品の需要が高まった。内食での食材をやや多めに購入し、あとは冷凍保存するライフスタイルも広がった。

 コンビニも冷凍食品に力を入れており、セブンイレブン、ファミリーマートもプライベート・ブランドの冷凍ピザの開発に力を入れ好評を博している。そんななかでコンビニが商品を値上げしてスーパーとの闘いに負けるわけにはいかない。

 スーパーも同じだ。コンビニとの闘いにくわえ、スーパー各社は消費の二極化が起きると見ている。日本でも家計の預貯金額が増加しており、海外旅行や外食を抑える反面に高級貴金属などの売上は好調だが、足元の経済回復が足踏みしている状況からも低価格の日用品を求める層がまだ多い認識だ。

 ゆえに食品スーパーが好調といっても安穏とするわけにはいかない。食品の値上げ基調の状況にあってもプライベート・ブランド商品を上げたくないのだ。

■「PB=高品質」へのイメージ転換

 このところ小売店のニュースはプライベート・ブランド商品が中心になっている。1980年ダイエーがお客の「Saving Mind」(節約意識)に応えるためにPB「セービング」を発表した。これがプライベート・ブランドの嚆矢とされる。

 以前であれば小売各社のプライベート・ブランドについて「安いが、品質はそこそこ」のイメージがあったかもしれない。しかし、この10年でイメージは覆り、むしろ高品質と認識されることが多くなった。

 そもそもプライベート・ブランドは、自社の顧客に応じた嗜好を反映するものであり、ネットの流行や、乱立する小売店との差別化のために広がってきた。他店と販売している商品が同じならば、価格競争くらいしか残っていない。しかし、独自商品を販売できれば、それが顧客の定着化や、新規顧客創造にもつながる。

 そして、プライベート・ブランドは、カテゴリに応じて細分化してきた。先にあげたイオンのトップバリュも、「トップバリュ」を中心に、さらに低価格を目指した「トップバリュベストプライス」。オーガニック商品などを扱う「トップバリュ グリーンアイ」、材料にこだわった高価格帯の「トップバリュ セレクト」などにいたる。

イオンはPB商品の価格据え置きを打ち出した=千葉市美浜区

 これはライフも同じで、価格訴求型の「スマイルライフ」、高価格帯の「ライフプレミアム」。健康志向の「BIO-RAL(ビオラル)」に分岐している。

 プライベート・ブランドは、小売各社のメリットにくわえ、お客にとってみれば低価格でニーズにあっている商品を買える。さらにメーカーからしても、その小売各社のニーズを理解できたり、棚の陳列スペースを確保できたり、買い取りゆえに収益が安定したり、さらに工場の稼働率をキープしたりできる。

■各社がPBに注力する理由とは?

 そして、何よりも小売各社がPBに注力する理由は原価率の低さにある。NB(ナショナル・ブランド)商品にたいして、卸などの中間マージン、メーカーの宣伝広告費がかからない。なによりも大量発注による効率化や合理化でコスト安が実現できる。

 先に挙げた各社だけではなく、西友は2012年に発表したPB「みなさまのお墨付き」を拡大するとした。現在では1200品目だ。昨年はコロナ禍のなか食品需要が旺盛になるタイミングで、500もの新商品をラインナップに加えた。同社はPBを収益の新しい柱として位置づける方向で、食料品分野の売上高のうち1/4まで引き上げようとしている。

西友はPB「みなさまのお墨付き」を拡大している=東京都北区

 西友はPB開発にあたって、消費者の声を貪欲に取り入れるとしており、2022年からは開発時点で消費者の声をダイレクトに商品に反映する仕組みを整える。これもPB拡大からは必然的な流れだろう。

 「無印良品」を展開する良品計画は2022年8月期の連結営業利益が前期比6%増の450億円である見込みと発表した。同社は食品領域に力を入れており、レトルトカレーなどが好調だ。とくに同社のプライベート・ブランド比率は9割を超えているので、利益を稼ぎやすい体質にあるとされる。

■どうなる?これからのPB

 原価率の低さは、低価格で販売すれば、そのまま利益には必ずしもつながらない。ただ、少なくとも低価格でNB並みの品質を実現できればお客にはアピールできる。小売店では目玉の商品を「マグネット商品」と呼ぶが、PBを活用すれば常にマグネット商品を陳列できる。

 ところで冒頭で、コロナ禍で冷凍食品等の需要が高まったと述べた。その他、おにぎりや飲料は定番として、調味量、パスタ、カレー、餃子などは好調だ。これも家庭内調理向けだろう。同じく、もちろん内食向けだが、ヨーグルト、キムチ、納豆などのプライベート・ブランド商品も売れている。これは健康かつ免疫力向上の意識が高まったためと考えられる。

 そうすると「安価」をベースとして、「健康」「こだわり」といったキーワードでプライベート・ブランドは拡大し続けていくはずだ。そして、一つの予想としては、これ以降、小売各社はメーカーと組むのではなく、むしろ自社で生産しようと試みるのではないだろうか。実際に業務スーパーは国内自社工場商品としてプライベートブランド商品を発表している。それは加工食品から精肉までと幅広い。

業務スーパーは国内自社工場商品としてPB商品を展開する=大阪府吹田市

 食品スーパーは、少し前、古い業態と思われていた。それは間違いだったようだ。アパレル各社はSPA(Speciality Store Retailer of Private Label Apparel)といって製造小売業が当然となった。私たちはプライベート・ブランドを梃子(てこ)として食品スーパー各社がSPA(Speciality Store Retailer of Private Label Food)となる時代に立ち会っているといえよう。


■坂口孝則(さかぐち・たかのり) 経営コンサルタント。大学卒業後、メーカーの調達部門に配属される。調達・購買、原価企画を担当。バイヤーとして担当したのは200社以上。コスト削減、原価、仕入れ等の専門家としてテレビ、ラジオ等でも活躍。企業での講演も行う。著書に『調達力・購買力の基礎を身につける本』『調達・購買実践塾』『だったら、世界一の購買部をつくってみろ!』『The調達・仕入れの基本帳77』(ともに日刊工業新聞社刊)『牛丼一杯の儲けは9円』『営業と詐欺のあいだ』(ともに幻冬舎刊)など35冊を超える。

★【坂口孝則の目からウロコの経済学】前回の記事はこちら★

〇青息吐息の百貨店、生き残りのカギとは?

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