【坂口孝則の目からウロコの経済学】ドン・キホーテの次なる挑戦

東京駅直下に出現した奇妙な店舗 

 今年5月、ドン・キホーテはユニークな店舗を開店した。場所は両方とも東京駅の八重洲地下街にあり、小道を挟んで併設している。一方は「お酒ドンキ」で、もう一方は「お菓子ドンキ」だ。

 どちらの店もドンキ流の圧縮陳列と派手なポップ、そしてディスカウント販売を全面に出している。他のドンキ店舗でも酒類や菓子類を扱っているものの、この2店で扱っている商品は他店で見ないものばかりだ。人々のハブとなる東京駅で、コロナ禍以後の消費者ニーズを捉えることができるかテスト・実験を繰り返しているように見える。

東京駅直下のお菓子ドンキ(以降も写真はすべて筆者撮影)

コロナ禍に輸入菓子が勢揃い

 お菓子ドンキでまず目に飛び込んでくるのは、「世界の輸入菓子大集合!」という特集だ。コロナ禍以前には、海外旅行では現地でお土産を買ってくるよりも百貨店の地下で購入したほうが良い、というジョークがあった。しかし、今では満足に海外旅行に行くことはできない。

 なるほど、海外旅行の代替としてせめて世界からの輸入品があるとアピールすることは一つの訴求になるかもしれない。アジア、欧州、北南米、多くのお菓子が並んでいるのは壮観でもある。

輸入菓子もドンキ流の圧縮陳列だ

 店舗サイズが小さいことはときとして不利に働くが、ドンキの場合は、小さくても圧倒的な商品を並べる圧縮陳列ゆえに、そのゴチャゴチャさを逆にアピールしてきたし、それゆえに大小、どのようなスペースにも出店できる強みがある。

 このお菓子ドンキはコンビニに満たないサイズだ。店を入ると、カップラーメン、カップ焼きそば、そして訳ありのポテトチップスなどが並ぶ。東京駅に出店する以上は、旅行や出張に行く前・帰り道のお客をつかまえるだけではなく、通勤する会社員たちの日常に溶け込み、リピートしてもらう必要がある。海外のお菓子だけではなく、通常用途のカップ麺まで、ほどよい比率の商品構成になっている。

 また、お菓子ドンキには、ドン・キホーテのプライベートブランドである「情熱価格」の商品が数多く並んでおり、粗利益の確保も忘れてはいない。

 なお、私が気になっていたのは、ドンキの強みの、ある種の「いかがわしさ」だ。お菓子ドンキでも、本来の危うさを忘れてはいなかった。「18禁カレーチップ」「18禁カップラーメン」(単に激辛なだけ)など商品の陳列もなかなか面白い。また激辛商品やツマミにもかなりのスペースが割かれており、隣のお酒ドンキとの相乗効果を狙っているように思う。

ウイスキーのガチャ、ペット入りビール…

こちらは「お酒ドンキ」

 先のお菓子ドンキが黄色を基調としていたのに対して、お酒ドンキは緑を基調している。本家のドン・キホーテにあるゲーム性を受け継いでおり、「ウイスキーのガチャ」がある。これは3,500円を払えばクジを引けるもので、最高で69,800円の「響21年」が当たる。最低でも3,580円の「モンキーショルダー」が当たる。この値付けの妥当性は置いておいて、ドキドキ感を酒店にも導入したのは注目していい。

 その他、お菓子ドンキと同じくコンビニに満たないようなサイズだが、多くの商品が陳列されている。ワイン、スピリッツ、ウイスキーにチューハイ類、焼酎に日本酒までなんでも揃っている。そして何よりも充実しているのはビール類(クラフトビール含む)だ。

 品揃えも面白い。850円のペットボトルに注入された生ビールも販売されている。実際に買ってみたが、アルミ缶や瓶ではないのに良い風味が楽しめた。また、個人的には日本酒はかなりのマニアックな銘柄が並び、佐賀県の純米酒「佐賀メンブリュウ」が普通に売られていたのには驚いた。

ペットボトル入りの生ビールも売られている

 なお余談だが、店の奥には酒の友として愛煙家の多い、電子タバコの一種であるCBD(麻に含まれる成分)リキッドの「+WEED(プラスウィード)」まで並んでいる。「食べ物+酒」という構図からは脱却して、しっかりと周辺商品を販売している。

「お菓子ドンキ」「お酒ドンキ」の面白さとは

 つまりこういうことだと思う。これまでの大量販売の時代から、少量販売の時代がやってきたといわれた。そして、少量販売であればネットで買ったほうが良いに決まっている。そこで本家のドン・キホーテは買い物をエンタメ化し、店舗では意外な商品との出会いそのものを売りにした。

 そしてドン・キホーテの実験店舗ともいえる「お菓子ドンキ」「お酒ドンキ」では、小規模な店舗なのに、いや、小規模な店舗がゆえに面白い特徴に振り切っているのが印象的だった。

 「メジャーな商品」と「マイナーな(しかし面白い)商品」に二分されていた。確かに、メジャーな商品=NB(ナショナルブランド)は集客のためにはいまだに重要で、お客への訴求として活用できる。ただ、それだけでは凡庸な小売店と同じなので、次に、ユニークなマイナー商品で独自性を出す。

 これはこれから小規模店舗の一つのスタイルになると思う。

メディアが書かない「お隣の店」

 ところで、「お菓子ドンキ」「お酒ドンキ」の出店について、各メディアがはっきりと書いていない、あるいは気づいていない点がある。それは、思いっきり「KALDI(カルディ)コーヒーファーム」の隣に出店しているのだ。

お菓子ドンキはKALDIのすぐ隣に出店した

 KALDIの目利きが選んだお菓子やお酒。もちろん、ドンキ側は加工食品や調味料類などを揃えているわけではない。しかし、完全に出店戦略としては「狙って」いるのは間違いない。

 KALDIからすれば「面倒くさい店がきたな」と思っているだろう。KALDIを目的にやってきたお客に、必然的に比較することになるのだ。さらにKALDIを見れば売れ筋もわかる。何かと比較対象になる。さらにKALDIなど、同業者の隣に「メジャーな商品」+「マイナーな商品」の組み合わせで出店すれば、さまざまな形態開発ができるだろう。

 みなさんの近くに新たな店舗ができたとき、その立地を少し考えると企業戦略がわかって面白い。


■坂口孝則(さかぐち・たかのり) 経営コンサルタント。大学卒業後、メーカーの調達部門に配属される。調達・購買、原価企画を担当。バイヤーとして担当したのは200社以上。コスト削減、原価、仕入れ等の専門家としてテレビ、ラジオ等でも活躍。企業での講演も行う。著書に『調達力・購買力の基礎を身につける本』『調達・購買実践塾』『だったら、世界一の購買部をつくってみろ!』『The調達・仕入れの基本帳77』(ともに日刊工業新聞社刊)『牛丼一杯の儲けは9円』『営業と詐欺のあいだ』(ともに幻冬舎刊)など35冊を超える。

★【坂口孝則の目からウロコの経済学】前回の記事はこちら★

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