【坂口孝則の目からウロコの経済学】青息吐息の百貨店、生き残りのカギとは?

コロナ禍での休業支援はどうだった?

 緊急事態宣言のなか、先日より百貨店に時短要請がなされた。閉店要請と比べれば緩和された要請といえるが、デパ地下や一階の化粧品売り場を中心として店員の集団感染が見られたため、百貨店各社は飲食店舗での酒類提供停止に加え、他店舗の時短や人数制限を行った。

百貨店の食料品売り場、いわゆるデパ地下では食品を透明のショーケースなどに入れるなどの感染対策を取っている=大阪市中央区の高島屋大阪店

 その際、営業時間短縮を実施した店舗については1000平方メートルあたり日額20万円が支給されると報じられた。少し前のテレビで、東京の大型店舗では売場面積が8万平方メートルを超えると解説していた。なので、単純に計算すれば日額1600万円となる。このレベルの都内百貨店だと一日の売上は6~8億円くらいだから焼け石に水だと。

 この解説は正確ではない。

 正確には、あくまで「営業時間短縮を行った」面積だけが対象となっている。さらに、20万円に(営業時間短縮の要請に応じて短縮された営業時間)÷(要請対象日の本来の営業時間)を掛けることになっている。だから、もし本来10時間営業だとして、1時間を短縮したとしたら1/10しかもらえない。だからさきどの計算式は1600万円ではなく160万円にすぎない。

 百貨店各社はどんな形であっても営業を続けたいーと希求している。

■売上構成では食料品強し

 ところでデパ地下という言葉は2000年代に生まれた浅い歴史しかもたない。ただし、広く、地下での食品販売という意味では戦前に愛知県で生まれている。さらには東京にも三越前駅という地下鉄駅が有名だ。

東京・日本橋の三越本店

 都市伝説では食品の匂いが生じるため、地下で食品を販売し、1階で匂いを消すために化粧品を販売している、といわれた。その都市伝説は半分ほんとうで、たしかに通行人に訴求するために化粧品を販売しているのはたしかのようだ。が、関係者へのインタビューによると、地下での食品販売は、地下街が発達するに伴って、百貨店が訴求性を上げて他の階にも上がってもらうための動線として発達してきた。

 話を現代に戻す。もはや百貨店といえば、婦人服ではなくデパ地下のイメージがある。そこで2021年7月の全国百貨店データを見てみた。

  • 食品:35%
  • 衣料:24%
  • 雑貨・化粧品:19%
  • 身の回り:14%
  • 家具等:4%
  • 商品券:3%

 上記のように、実際の売上高も食品がトップになっている。なお公平に付け加えれば、これは食品が伸びたというよりも、調査できる2008年と比べれば、他がより下がっているのが正しい。

 かつて1991年には10兆円弱あった百貨店の市場規模は2020年には4兆円を少し超えるにすぎない。また売上高だけではなく、利益も出ていない。さらにコロナ禍のなかで2021年も前年同期比で奮っていない。

■繰り返された業界再編

 もともと、どこまでを百貨店とみなすかは議論がある。ただ、概算で年間の商品販売額合計を100兆円だとすると、百貨店の比率は4%程度にすぎないことになる。そのなかで生き残ろうとすれば、大きな再編が続くのはやむを得なかった。かなり複雑だが、百貨店業界は次のような変遷を経てきた。

  • 三越と伊勢丹→三越伊勢丹ホールディングス
  • 大丸と松坂屋→Jフロントリテイリング
  • そごうと西武百貨店→セブン&アイHDへ
  • 高島屋→高島屋
  • 阪急百貨店と阪神百貨店→エイチ・ツー・オーリテイリング

 そして、この再編でもまだ訴求性を向上できたとはいいにくく、「最近、百貨店に行きましたか」と質問しても思い出せる人がいないほどだ。象徴的だったのは、百貨店業界を追いかけている記者と話をしたときで、氏が深刻な話をするので質問してみたら、「数ヶ月前に、弁当を一つ買った」だけとのことだった。

■復活に向けての提言

 さて、百貨店の復活に向けて、どのようなことが考えられるだろうか。3点指摘したい。

(1)顧客嗜好の深堀り

 百貨店に行くたびに、なぜ私のことをもっと知ってくれないのか、と思う。たとえばデパ地下で買い物をする。食品売り場で何かを買えば、これとマッチするワインなどはいくらでも推薦できるはずだ。さらに気に入ったとき、リピートで購買できる仕組みがない。メールで教えてくれればリピート購買したいと私は思う。

 また、衣類も同様だ。なぜその百貨店にしか置いていないラインナップを教えてくれないのだろう。また、何かを購入したときに、そのアウターに似合う他店舗のボトムスをなぜ教えてくれないのだろうか。さらに私の好みを自動的に判断して、シーズンごとのオススメをなぜ教えてくれないのだろうか。

 これにはもちろん理由があって、百貨店が個店まかせにしているためだ。しかし「百貨」を取り集めている強みを発揮できなければ、かなり未来は暗い。

(2)定額収入モデルへの変換

 あるいは積極的に百貨店を辞めるモデルも考えられるだろう。実際にGINZA SIXはこれに近い。各店舗へスペースを貸し出し、そして店舗からは賃料を得る。百貨店側からすれば安定的な収入になる。さらに特定の階から上はオフィススペースとして貸し出す場合もある。

 ただしこの場合は、そもそも賃料に見合うような売上と利益が得られなければ、各店舗とも定着が難しい。実際、私の自宅近くには大型商業施設があるのだが、必ずしも集客に成功しているとは言い難く、ハイブランドの衣料店は入れ替わりを繰り返している。

(3)売らない店舗への脱皮

 隣の国、韓国を見てみよう。ロッテは東灘(ドンタン)に新たな百貨店を開いたが、そもそもモノを売ることを考えていない。同地区はIT企業のオフィス街に近く、彼らにマッチする飲食店を多く集めた。

 さらに、新世界も大田(テジョン)に新たな百貨店を設けたが、これはもっと大胆で科学・工学を学ぶ場としている。ここに来れば先端の学びが可能とした。昨今はSTEM(科学・技術・工学・数学)教育が盛んだが、そういった教育に熱心な富裕層を取り込む計画だ。

 その場所を気に入ってもらえば、あとはついでに何かが売れるかもしれない。必要なのは過去のモデルからの脱皮にほかならない。


■坂口孝則(さかぐち・たかのり) 経営コンサルタント。大学卒業後、メーカーの調達部門に配属される。調達・購買、原価企画を担当。バイヤーとして担当したのは200社以上。コスト削減、原価、仕入れ等の専門家としてテレビ、ラジオ等でも活躍。企業での講演も行う。著書に『調達力・購買力の基礎を身につける本』『調達・購買実践塾』『だったら、世界一の購買部をつくってみろ!』『The調達・仕入れの基本帳77』(ともに日刊工業新聞社刊)『牛丼一杯の儲けは9円』『営業と詐欺のあいだ』(ともに幻冬舎刊)など35冊を超える。

★【坂口孝則の目からウロコの経済学】前回の記事はこちら★

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