【坂口孝則の目からウロコの経済学】「ダークストア戦争」とは⁈

アリババが仕掛けた新業態のスーパー

 コロナ禍が始まる前、アリババが中国で新たなコンセプトのスーパーマーケットをオープンさせたと聞いた。その名は「フーマーフレッシュ(盒馬鮮生)」。そこで、他の用事とからめてさっそく中国の上海に行ってみた。

 店に着くと、さほど変わった様子には見えない。

 レジはセルフになっているものの、これはさほど新しいものではない。海鮮品を扱っていたものの、それも同店だけの取り組みとはいえない。品揃えが卓越しているようでもない。

 しかし、気づいたのは、お客に対してスタッフの数が多く、彼らは「買い物」をしているようだった。よく見ると、タブレットを片手に買い物袋を持ち、商品をピックアップしている。どうやら、デリバリーの注文を受けて配送の準備をしているらしい。つまり、この店舗は、お客が立ち寄れる実店舗でありながら、さらに倉庫としても機能しているのだ。

 スタッフが注文の商品を集め終わると、店舗の片隅にあるクレーンにひっかける。そうすると、買い物袋は天井に吸い上げられて、店の上部にあるコンベアーに乗って店内の配送準備所に消えていく(上の写真の上部に見える青い袋)。そこではバイクに乗ったスタッフが待ち構えており、近場のお客に30分ほどで届ける。

 インターネットがリアルとの境界を融解した。なるほど、その次は、リアルのなかでも店舗と倉庫の境界も融解するのだ。なお当時、この取り組みはフーマーフレッシュだけのものだけではなかった。しかし、フーマーフレッシュは効率的に、かつ多店舗展開をしており、感心した記憶がある。

■世界的にダークストアの流れが加速

 コロナ禍はゴーストキッチンという形態を生んだ。これは来店を前提にしない厨房だけのレストランであり、料理はデリバリーサービスでのみ提供される。そうすれば、オペーレーションコストは最低限に抑えられるし、売上高は立地によらない。

 さきほどのフーマーフレッシュは、倉庫と実店舗の融合だったが、さらに実店舗の役割を薄くしたり無くしたりする取り組みが加速してきた。これを「ダークストア」と呼ぶ。いわゆるネット販売の物流拠点であり、ここから注文者に商品が運ばれる。

 商品と消費者の出会いはネットに任せ、ネットを中心に成長していく。リアルな箱物は、あくまで次の手段で、それも消費者に訴求するためではなく物流倉庫として活用する。

 日本でもイトーヨーカドーが、文字通りダークストアである「ネットスーパー西日暮里店」を展開している。また先日はフードデリバリーを手掛ける「フードパンダ」が日用品などの配送を行うダークストアをオープンして話題になった。

イトーヨーカドーの「ネットスーパー西日暮里店」。ダークストアのため、コンビニのようなサイズ感だ

 各社が意識するのは、やはりアマゾンだろう。同社は米国を中心にダークストアを設けている。消費者の居住地の近くに点在し、商品を配送しやすく、受け渡しやすくする。同社の傘下である「ホールフーズ・マーケット」の生鮮食品を即配送する仕組みだ。

 これまでならば主婦・主夫層を中心として、生鮮食品は目で確かめたいニーズもあっただろうが、コロナ禍はその価値観も修正させた。一方、米国では対面を中心にした販売が復活するなど販売手法が修正されつつある。ただ、コロナ禍がはじまったタイミングでは、世界最大の家電量販店である米ベストバイが全店舗をダークストアにした。

■配送時間に見る各社の戦略

 多くの読者もネット販売サイトを活用しているはずだ。配送時間で区分してみる。

①通常:当日から翌日配送

②ネットスーパー:2~4時間配送

③ダークストア:10~30分配送

 本や家電ならば①でいい。スーパーマーケットのリアル店舗が強いのは、②の2~4時間後だと遅いからだ。計画的に注文できればまだしも、仕事帰りにサッと行って、 サッと持ち帰る。このニーズは高い。

 そこで、③は配送時間から見れば、商圏を絞って即消費のための即配送ビジネスだと読むことができるだろう。商圏を絞っているため、どこにでも配送できるわけではないものの、そのぶん限られたエリアで効率的に配送ができる。コストも抑えられるだろう。もしかすると、時間や地域を限定している分、労働者も集めやすくなるかもしれない。

 ところで、少し前まで、現代社会の「高速化」の反動として、あくせくしない生活=スローライフがもてはやされた。その感覚からすると違和感はぬぐえない。しかし、考えてみればこれは当たり前のこと。ゆっくりできるときもあれば、急ぎで何かを必要とする場合もあると、平凡な結論に行き着く。

■日本の特殊事情と課題

 ところで、先日、ネットスーパー関連で調べていると関係者から面白い話を聞いた。日本には「主婦・主夫らの頑張りすぎ問題」がある。というのも、日本人は家族に対して、かなりバラエティー豊かな食事をつくる。連続で同じようなものを食さない。すると、一つひとつの食材購入量は少なくなり、購入金額も少額で、頻度があがる。

 これに対して欧米は家庭によるだろうが、料理のパターンが決まっているため、一つひとつの購入量や金額が大きい。さらに日本と比べると頻度も低い。

 この結果として配送業者からすれば、日本は儲からない市場になっている。細かな配送が必要だから、その分のコストが生じる。だから、配送している各社とも、まだまだ十分な利益を上げているとはいえない。このあたりはこれからの課題になるだろう。

 とはいえ、日本文化の細やかさを変えるのも簡単ではない。となれば、配送各社は食材ではない、他の商品を運ぶことになるだろう。実際に一部では飲料・酒類などにくわえて、文房具や雑貨を送ることを検討している(実施しているサービスもある)。

 ただ、突発的に文房具や雑貨を必要とするシチュエーションを私はなかなか想像できない。かつ、文房具ならぱっとコンビニに行って買えばよく、配送してもらいたいニーズが私にはない。ただ、その時間すら割けない家庭の事情もあるのだろう。文房具ならばついでに何かの飲料などもついでに買ってくれるかもしれない。また、突然の祝い事で、雑貨などの贈り物が必要になるケースなどもあるのだろう。

 これから即配送は、短時間と突発のニーズを組み合わせてビジネスを展開していくに違いない。そして知名度を上げていくためには、ダークストアの拠点を増やしていく資金勝負が待っている。赤字を我慢できる体力が必要だろう。この短時間と突発のニーズの領域をめがけて、大手からベンチャーまで、多数のプレイヤーが参入している。

 勝者はどこだろうか。小売の世界でダークストア戦争が勃発している。


■坂口孝則(さかぐち・たかのり) 経営コンサルタント。大学卒業後、メーカーの調達部門に配属される。調達・購買、原価企画を担当。バイヤーとして担当したのは200社以上。コスト削減、原価、仕入れ等の専門家としてテレビ、ラジオ等でも活躍。企業での講演も行う。著書に『調達力・購買力の基礎を身につける本』『調達・購買実践塾』『だったら、世界一の購買部をつくってみろ!』『The調達・仕入れの基本帳77』(ともに日刊工業新聞社刊)『牛丼一杯の儲けは9円』『営業と詐欺のあいだ』(ともに幻冬舎刊)など35冊を超える。

★【坂口孝則の目からウロコの経済学】前回の記事はこちら★

〇小売店のプライベートブランド=PB戦争を大研究!

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