【坂口孝則の目からウロコの経済学】ダイソーは100円ショップを捨ててしまうのか

ダイソーが渋谷店に併設する形でオープンした
新業態の「Standard Products」

コロナ禍で100円ショップが成長

 100円ショップが好調だ。100円ショップの経営母体が上場企業ではない場合もあるため、推計となってしまうものの、年間市場規模は9,000億円ほど。消費者の低価格志向もあって、このところ伸び続けていた。

 それに加えてコロナ禍がやって来た。コロナ禍での伸び、と聞いて、納得できる人も多いだろう。コロナ禍で自宅時間が増えた。そうすると、室内を整理整頓したり、掃除したり、料理したりする時間が増える。

 さらに100円ショップは手軽さから、ついで買い・まとめ買いを誘発する。ECでも類似品を購入できなくはないが、来店し商品を選びたいニーズは高い。さきほどあげた9,000億円で単純計算すれば、国民は一人あたり年間9,000円も100円ショップで費やしている。

100円ショップの売上は伸びているものの……

 ところで絶好調に見える100円ショップだが、課題がないわけではない。

 業界トップはダイソーだ。ダイソーの年間売上高は5,000億円程度。海外のさまざまな店舗を含むので厳密ではないが、その売上高をざっと5,000店舗で割ると、1店舗あたり年間約1億円の売上となる。一見、大きそうに思えるが、あの店舗で月に800万円くらいなので、仕入れ・店舗賃料・人件費などを考慮すると、ものすごく儲かるわけではない。

 さらに、競合他店との闘いのなかで訴求性をあげるために、相当な数の新商品を投入している。同社では1店舗で約7万点の商品を扱っている。これは実にGMS(巨大スーパー)の商品点数と近い。さらに月に800点もの新商品を投入している。開発費用もバカにならない。

 また、仕入先の新興国の労務費向上、物流費もアップしている。宣伝広告費をかけようにも、もともと原価率が高い。また、立地条件で売上が左右されるため、店舗賃料を渋ることもできない。各社ともSNSを活用したり、口コミを頼ったり、ペットボトルのジュースを低価格で販売したりと健闘を続けてきた。

コロナ禍での推薦商品

 私がダイソーで取材したところ、不動の売り上げ1位は乾電池。乾電池であれば割安感が出るし、目的をもって来店した人に他商品も買ってもらえる。そして2位は食品類と続く。

 一方で、このところ力を入れているのが、「キッチングッズ」「除菌関連」「整理整頓・掃除用品」「在宅勤務関連商品」だ。ミニまな板、多機能トングなど、自宅で調理をする男女が増えたニーズを捉えている。また除菌ペーパー、消毒液などを全面展開している。さらに化粧板、組み立て式の本棚など、これを機会に部屋周辺を整えたい欲求にも応えている。

 個人的な話だが、私はかつてメーカーで勤務していた。そのとき、「休日に時間があったら、ホームセンターや雑貨店を巡れ」といわれた。そして「そのあとに100円ショップに行け。そうすると類似品をいかに安価に生産しているか理解できる」といわれたものだ。もちろんホームセンターや雑貨店のクオリティは高いものの、それなりの品質で満足するお客も多い。

ダイソーの注目するべき動き

 さらに、最後の「在宅勤務関連商品」において、私が注目するのは100円以外の商品も積極的に陳列するようになった点だ。たとえば同渋谷店を見てみよう。

 ダイソーでは1,000円のキーボードが売られている。また500円のヘッドホン、300円のHDMIケーブル、300円のUSBスピーカー、300円のハンズフリーイヤホン、200円のリモコンマイク付きイヤホンもある。

 また、これを「在宅勤務関連商品」と同列にしてよいか疑問はあるが、300円の保温カップなども陳列されている。店舗をよく見れば、そもそも客単価をあげていこうという同社の意図が見られる。 

 なお、在宅の意味ではヨガ関連のグッズが充実したり、ペット関連、子供が室内で遊ぶカードゲームなどのおもちゃも充実したりしている。これもコロナ禍の影響と考えられるだろう。また在宅ではないが、密を避ける意味で、野外での園芸グッズ、キャンプ用品などの拡充なども抜かりない。

 さて、客単価を上げる話に戻す。この意図を強く感じるのが、ダイソーが渋谷店に併設する形でオープンした「Standard Products」だ。

 同店は、無印良品を思わせるイメージで、価格帯は100円から1,000円にいたる。ざっと見る限り中心価格は300円で、食器類、タオル類、寝具が並ぶ。さらにアウトドア商品だ。ただ、あくまで中心価格が300円なだけで300円ショップとは異なり、平均値で少し上の価格帯だ。

 私が興味深かったのが、客層で平日の昼前に女性客がほぼすべてだった(私を除く)のと、これは偶然であるが、二人の女性ユーチューバーが商品を手に取りながらスマホで録画をしていた。

 そこには、撮影可能の立て札。まさか、この立て札自体を撮影されるとは思わなかっただろうが、ご丁寧に「FacebookやTwitterで拡散してね」の依頼まで載っている。冒頭で説明したように、SNSを使用した戦略が鮮やかな形で純化している。

 ダイソーなどの100円ショップは、コロナ禍にあっても好調を維持している。しかし、他の小売店と競合する中で原価率の上昇など課題も明らかになった。100円ショップなどでは、コロナ禍に対応するために「キッチングッズ」「除菌関連」「整理整頓・掃除用品」「在宅勤務関連商品」などの関連商品を充実させてきた。

 そして、特にダイソーに見られるように、ブランディングを活用し「脱100円」によって次の成長機会を伺っている。確かに中心価格帯が300円近辺で最高価格が1,000円程度であれば、まだ雑貨店との差別化はできるのかもしれない。どのような成果に結びついていくか注目したい。

■坂口孝則(さかぐち・たかのり) 経営コンサルタント。大学卒業後、メーカーの調達部門に配属される。調達・購買、原価企画を担当。バイヤーとして担当したのは200社以上。コスト削減、原価、仕入れ等の専門家としてテレビ、ラジオ等でも活躍。企業での講演も行う。著書に『調達力・購買力の基礎を身につける本』『調達・購買実践塾』『だったら、世界一の購買部をつくってみろ!』『The調達・仕入れの基本帳77』(ともに日刊工業新聞社刊)『牛丼一杯の儲けは9円』『営業と詐欺のあいだ』(ともに幻冬舎刊)など35冊を超える。

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