【坂口孝則の目からウロコの経済学】買い物天国か、それとも地獄か!?メガトレンド「BNPL」とは?

■BNPL=「後払い」システム

 数年前、ある人と話していたら「新しいビジネスは給与の前払いサービスがいい」と聞かされた。そんなニーズあるか? 「だって、日本では1000万人も消費者金融で借りているんだから、給与日直前のニーズは高い」と断言された。「会社に保障してもらえば、取りっぱぐれもない」らしい。前払いとして数%の手数料が必要なだけであれば利用者はいるかもしれない。実際にその後、多くの給与前払いサービスが登場した。先見の明があったというべきだろう。

 なお、1000万人が消費者金融から借りているとはいえ、そのなかには重複がある。ただお金を預貯金するどころか、収入が入金する前に使い果たしてしまう人は相当数に登るだろう。

 ところで「BNPL」という言葉をご存知だろうか。これは、Buy Now, Pay laterの頭文字をとったもので、小売のフィンテックにおいて現在もっとも注目されている言葉だ。つまりは後払いのシステムだ。仕組みはこうなる。リアル店舗やネットで商品を選び、支払い条件にBNPLを選択する。続いて携帯番号や氏名等を入力すると、与信の調査が開始し、すぐさま購入が完了するというものだ。

 これはクレジットカードと何が違うのだろう、と思うかもしれない。ある意味では似ている。ただ流行している米国ではクレジットカードを有していない国民が多い。また、支払いも、翌月や、さらに先に設定できる。細かな分割設定まで可能だ。またBNPL業者によってはクレジットカードよりもはるかに手数料が低い。支払いはコンビニでも可能だ。与信の審査もそれほど高くない。

スマホを使ったBNPLのサービスも増えている

 さらに導入する店側にもメリットがある。それはクレジットカード会社への支払い手数料が抑えられるだけではなく、たとえば特売の商品は購入者にとっては手数料が無料など細かな管理が可能だ。これによって特定の商品のPRもできる。

 現時点ではビックカメラなどをはじめとする日本の店舗にも広がっているし、消費の本場である米国でもアマゾン・ドット・コム、アップルストア、ウォルマートなど採用が相次いでいる。また、米国の大手決済代行会社PayPalがBNPL業者であるPaidyを高額買収したし、もう一つの雄である米国スクウエアもオーストラリアのアフターペイを買収するなど話題になった。

 さらにクレジットカード会社もBNPL業者と組み、決済の機会を逃さないようにクレジットカードだけではなくBNPLも選べるようにするなど進化が続いている。

■個人スコアで買い物可能枠が拡大

 アフリカでは、固定電話が普及する前に、一段飛んで携帯電話が普及した。この後払いもそうだ。日本などの進んだ国は例外としても、アジアではクレジットカードの保有率が1割程度しかない。しかしスマートフォンは持っている場合が多い。そうすると、このBNPLが現金からクレジットカードを飛び越して新たな支払い方法となる潜在力を秘めている。

 ところで団地金融という言葉を知っているだろうか。消費者金融は以前、サラリーマン金融(サラ金)と呼ばれていた。高度成長期に必要な家電や同僚との食事、あるいは主婦や主夫が生活費を工面するために、集合住宅である団地を中心に広がっていった。当時の団地居住者は安定した会社勤めであり安全な回収が期待された。

 半ば都市伝説だが、団地金融では貸付上限額が生活状況から判断されたという。たとえば玄関ドアの前が乱雑なら金銭的なルーズさが予想されるいっぽうで、整理整頓されていれば金銭的にも厳格さが予想される。

 このBNPLも似ている。過去の使用実績から利用できるかが決まったり、上限額に反映されたりする。はじめは少額のみかもしれないが、きちんと返済を続ければ、使用可能枠が拡大する。中国のアリババの関連会社アント・フィナンシャルサービスグループは芝麻信用というシステムで中国人利用者の信用スコアを採点している。このBNPLの与信は、年齢や所属会社、住所にかかわりなく、テクノロジーによってあくまで行動で利用者を評価する意味で、きわめて現代的だといえる。ある種の公平性が土台だからだ。

 コロナ禍以降、ネットでの買い物が増えた。しかしクレジットカードという手段を持たない分厚い層がいるのは、フィンテック業界にとって新たな発見だったわけだ。

■ECサイトの進化が普及を加速?

 こうなると今後の展開は次のように予想できる。まずアマゾンなどのECサイト企業が自らBNPLに乗り出すものだ。彼らは実際に、アマゾンキャッシュを展開している。これはリアル店舗でお金をチャージすればネット上でも使える仕組みだ。

 さらにECサイト企業はユーザーの莫大な行動データを有している。さらに購入履歴や与信情報も持っている。これらを組み合わせ、高い与信で他頻度の購入歴があるユーザーにたいしては無利子でのBNPLを勧めることにより、さらに売上拡大が期待できるだろう。さらにオススメ商品をBNPLで購入できるようにすればいい。いますぐはお金がないが、後に買いたいと思っているものも、しばらく時間が経てば購買につながらないかもしれない。BNPLであれば、その場で購入を決断してもらえる可能性が高い。

 次にアジア各国では、それこそ冒頭であげたような給与の前払いサービスとあわせてBNPLが進化するポテンシャルを秘めている。たとえば、スーパーアプリ(さまざまなアプリを統合したプラットフォーム)を使い、そこに給与が振り込まれる。手数料を割り引いて前払いも可能となる。さらにそのアプリは個人の行動も記録しているから、与信審査が簡単になり、BNPLで商品の購入も可能となる。またそのスーパーアプリ内で食事のデリバリーや配車なども使用できるかもしれない。

 それにしても後払いまでをも高度化して、商品を次々に買わせる高度資本主義の進化には感心する。当たり前だが、数%の手数料がかからないからといっても、余計な商品を購入してしまえばお金は減っていく。しかし本場の米国では、少し前の調査ではすでに44%の国民がBNPLを利用したという(https://jp.reuters.com/article/fintech-consumers-pay-later-idTRNIKBN2G51GF)。刹那な米国人には合致したサービスということか。

 日本人は消費意欲が減退しており、後払いどころか、買いたいモノ自体がない、と言う人すらいる。実際にコロナ禍では、財務省が「強制貯蓄」と呼ぶ20兆円が日本の家計の貯蓄額として増加した。それと鮮やかな対比を描くように、米国やアジアでのBNPLの発展。手数料が無料だからといって、後払いだとしても欲しいモノってなんだろう、と私は自問している。


■坂口孝則(さかぐち・たかのり) 経営コンサルタント。大学卒業後、メーカーの調達部門に配属される。調達・購買、原価企画を担当。バイヤーとして担当したのは200社以上。コスト削減、原価、仕入れ等の専門家としてテレビ、ラジオ等でも活躍。企業での講演も行う。著書に『調達力・購買力の基礎を身につける本』『調達・購買実践塾』『だったら、世界一の購買部をつくってみろ!』『The調達・仕入れの基本帳77』(ともに日刊工業新聞社刊)『牛丼一杯の儲けは9円』『営業と詐欺のあいだ』(ともに幻冬舎刊)など35冊を超える。

★【坂口孝則の目からウロコの経済学】前回の記事はこちら★

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