【坂口孝則の目からウロコの経済学】リアル本格化のアマゾン レジ無し店舗で示す「未来図」

Amazon Goの進化

 先日、米アマゾンはロンドンとワシントンでレジ無しのスーパーマーケット「Amazon Fresh」をオープンさせた。これまで同社は、コンビニエンスストア形態でおなじようにレジ無人化の「Amazon Go」を展開していた。店内に張り巡らせたカメラで、顧客の手にとった商品を自動判別。そして顧客がゲートから出ればアマゾンのIDで自動的に決済される仕組みだ。それをついにスーパーマーケットにも拡大した。

アマゾンのレジ無しスーパー「Amazon Fresh」(Amazonのサイトより)

 アマゾンはこれを「Just Walk Out Shopping」と呼び、レジの時間がなくなることで消費者の利便性につながるとしている。これまではコンビニで販売されるような規格品がメインだった。それが、キャベツなど生鮮食品に広がればもっと可能性が広がるし、これを使った様々な業種の無人店舗が実現するだろう。

 この「Amazon Fresh」では、まず利用者はアマゾンのアプリからQRコードを出す。それをかざして入店。すると笑えるほど多くのカメラが天井にぶらさがっている。これで動作を分析するのだ。品揃えにホールフーズブランドのシリアルなどが多いのは買収戦略がシナジー効果を生み出しているといえる。また焼きたてのパンやケーキもピザもある。その複雑な形状を察知するのはさすがだと思う。

 なお「レジ無し」と書いたが、正確にはアマゾンによるこの新たなスーパーマーケットでは旧来のようにスタッフと接しながら買い物する余地も残されている。旧来のチェックアウトレーンを使ってレジで支払う方法だ(実際にいくつかの画像では、とくにシニアの方々が有人レジを使う様子が見て取れる)。しかし、とはいえ利便性は明らかにアマゾンのIDを有したレジ無しの買い物体験であるはずで、この流れは加速していくだろう。

参考:Amazon Freshのサイト(https://www.aboutamazon.com/news/retail/amazon-fresh-grocery-store-meet-just-walk-out-shopping

小売店のレジ無し化の理由

 ところで、小売店でレジの無し化に進む理由としては「人件費が高い」「そもそも人を集められない」といったこれまでの理由に加えて、コロナ禍では「非接触で買い物がしたい」という消費者側の意向に沿った側面があった。

 よくレジの自動化によって「無人店舗が実現」といわれる。これは正しくなく、多くの店舗では陳列や管理などの人員がいる。完全に無人ではない。実際に前述の「Amazon Fresh」店舗では、店内にかなり多くの店員がいる。ただ、考えれば当たり前でレジの人員がなくなるだけで相当な人件費が削減できる。

 顧客が手にとったものを、ゲートを通過したら、そのまま決済ができる。とすれば、どのような利点があるだろうか。人件費の削減以外では、小売業で売上の数%の損失といわれる万引きをなくせるだろう。さらに、レジ人材を店舗に配置でき、顧客に商品の提案ができる。

 そもそも決済業務の本質とは、買い物客がカゴにピックアップしてきた商品の合計金額の明確化とともに、その増額も目的としていた。本来、決済業務ではクロスセルが求められる。つまり「ついでに、これもどうですか」とマクドナルドのように勧めることだ。クロスセルを真面目にやるだけで中小企業の売上の数割は伸びる。しかし、現在スーパーマーケットではクロスセルを勧められる機会さえない。これなら機械に代替が可能だろう。

リアル店舗「買い物履歴」の底力とは

 ところで日本で進むレジ無人化店舗では、あくまでレジはあるが、そこに店員がいない。金額を確認して支払う。「Amazon Fresh」はそもそもレジがなく、ゲートを通過すれば決済される。「Amazon Fresh」はしばらくすると、アマゾンアカウントで決済内容を確認できる仕組みだ。

 アプリで確認すると、ネットで購入した履歴と、スーパーマーケットで購入した履歴がシームレスに並んでいる。これまでもスーパーマーケットのレシートで購入履歴は確認できるが、それをエクセルで入力して管理しているひとはほとんどいない。これからはそれがクラウド上で保存されるのだ。

 ネットとリアルの購入履歴が紐づくことになる。履歴分析から「Amazon Fresh」のレコメンド通知も可能になるだろうし、嗜好に応じて、ネットでのまとめ買いなども提案できるようになるだろう。

 かつてID-POSという言葉が流行した。これは、POSデータに、購買者の属性を付け足すものだ。これで細かな分析ができる。アマゾンは、生鮮食品のデータも入手できるようになるわけで、これは将来、ヘルステックと組み合わせて健康商品などを提案できるようになるかもしれない。

買い物テック」の可能性

今後はネットとリアルの購入履歴が紐づく。アマゾンが流通業界にさらなる革新をもたらす可能性もある

 ところで話は変わるようだが、みなさんはスーパーマーケットのレジで合計金額が高すぎるからと、客が商品を棚に返却する姿を見たことがあるだろうか。私は一度しかない。多くのお客は告げられた金額を支払って、店を出る。

 現在、「Amazon Fresh」ではゲート通過後、しばらしくて購入履歴を確認できる。それがリアルタイムで自分の請求予定額を確認できるようになったらどうだろう。「こんなに買ってしまったのか」と購買金額は下がるだろうか。あるいは「このていどの金額ならもう数品を増やすか」と購買金額は上がるだろうか。

 また、その際にアルゴリズムで「買い忘れている可能性のあるものリスト」が表示されると、それにクロスセル効果はあるだろうか。また、「あと○円でクーポン入手可能」と表示が出たらどうだろうか。

 これは経済心理学的な実験をせねばわからない。しかし、私は、日本においては購買金額が上がる可能性があると考えている。もともと手に取った商品を戻しにくい性質。買い物点数を減らすことは少なくても、増やす可能性は高いと思うからだ。

 スーパーマーケットは、もはや古い業態と思われていた。しかし、「Amazon Fresh」は新たな技術を吹き込んだ。流行語として「買い物テック」がある。アマゾンというITからのリアル店舗への本格参入は、その古い業界もテクノロジーによって革新がもたらされる可能性を示唆している。

■坂口孝則(さかぐち・たかのり) 経営コンサルタント。大学卒業後、メーカーの調達部門に配属される。調達・購買、原価企画を担当。バイヤーとして担当したのは200社以上。コスト削減、原価、仕入れ等の専門家としてテレビ、ラジオ等でも活躍。企業での講演も行う。著書に『調達力・購買力の基礎を身につける本』『調達・購買実践塾』『だったら、世界一の購買部をつくってみろ!』『The調達・仕入れの基本帳77』(ともに日刊工業新聞社刊)『牛丼一杯の儲けは9円』『営業と詐欺のあいだ』(ともに幻冬舎刊)など35冊を超える。

★【坂口孝則の目からウロコの経済学】前回の記事はこちら★

〇小売店はVRで次の「夢」を見るのか

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