迫力満点、沸き立つ「学習図鑑」市場、巣ごもり需要で競争激化

「学研の図鑑LIVE」シリーズ

 主に小学生を対象にした「学習図鑑」の人気が高まっている。講談社が再参入、今年にKADOKAWAが新規参入して競争が激化したことが好刺激にもなって市場が拡大。新型コロナウイルスの感染が拡大した昨年には、子供の在宅時間増加に伴う巣ごもり需要も取り込んだ。現在ではインターネットでの展開に加えてリアルのイベントも開催。その人気は本を飛び出し、社会に広がっている。

 「ここ5年で売り上げが倍増していて、過去最高といっていいぐらい。それだけ教育的な観点で親御さんが選んでくれているという流れができているという気がしている」

 小学館第三児童学習局図鑑室長の北川吉隆さんは、近年の学習図鑑市場についてこう語る。

 小学館と学研が老舗として長く学習図鑑市場を引っ張ってきたが、21世紀に入って変化が起きた。かつて出版していた講談社が23年に業界初となるDVD付きの学習図鑑で再び参入し、各社がDVDのついた商品を発売。今年5月にはKADOKAWAが創刊を果たした。書店の売り場面積も広がり、市場は広がった。最も新しいKADOKAWAの初版は当初の予定から倍になったことは、市場の勢いを示している。

 新型コロナの感染が広がって学校が休校し、子供たちが自宅で過ごすことが増えた昨年も需要が増加した。学研プラスが発行する学習図鑑の令和2年の売り上げは前年を超え、3年の上半期は前年比130%超を記録している。同社の出版事業部児童出版事業室で学習図鑑の販売を担当する後藤真宏さんは「動物園や水族館に行きづらい環境で、お子さんの興味が図鑑に向いてきている」と説明する。

つながり意識し構成

 活性化する学習図鑑の市場を支えているのは、各社が個性を明確にして、多様な商品をそろえているところにある。

 今年5月28日に「角川の集める図鑑GET!」として「恐竜」「動物」「昆虫」の3種類を刊行したKADOKAWAは、生物の分類別ではなく、生息年代別や生息地域別という構成で編集を行っている。

今年5月に刊行された「角川の集める図鑑GET! 動物」

 KADOKAWA児童統括部図鑑編集部編集長の小荒井孝典さんは準備にあたって、「各社さんの図鑑は例えば、昆虫だったら『~目』という分類で構成されていた。子供向けの学習図鑑は新種を発見するための本ではないから、分類別である必要はあるのか、分類別ではない図鑑の見せ方があるのではないかと考えました」と話す。

 どのような編集にしようかを考えていた小荒井さんに、ヒントを与えたのは当時幼かった娘だった。トリケラトプスをメインにプテラノドンが小さく描かれていた恐竜のカードを見て、その2種類とティラノザウルスが「一緒にいたの?」と尋ねてきたという。トリケラトプスとティラノザウルスが戦っている絵本をよく見ていたからだった。トリケラトプスとプテラノドンが一緒にいるんだったら、そこにはティラノザウルスもいるはずという思考だった。

 娘の質問に気づかされた。「関連付けて考えさせるような仕掛けをしてあげれば、子供はちゃんと物事を関連付けて考えるという発見があった。分類別の一体一体を見せるのではなく、何と何が一緒に生きていたというのが分かりやすい図鑑を作ってあげれば、考えを広げていってくれるのではないかと思いました」。そうしてたどり着いたのが生物のつながりを意識した生息地域別によって構成された図鑑だった。

驚く写真だけで構成

 平成23年に学習図鑑としては初めてDVD付きという「講談社の動く図鑑MOVE(ムーブ)」で再参入し、シリーズ累計480万部超を発行している講談社は、ビジュアルへのこだわりが最大の特徴だ。

「講談社の動く図鑑MOVE(ムーブ)」の最大の特徴はビジュアル。驚くこと必至の写真が大きくレイアウトされている

 講談社第六事業局MOVE編集部編集長の佐藤華さんは「調べるものというのが図鑑の使い方として常識的だったかと思うが、MOVEの場合は毎日楽しめる図鑑として、驚くことでもっと学ぶ意欲を子供にもってもらえることを目指している」と語る。

 使われている写真には衝撃的なものが多い。例えばジャガーがワニを捕らえたものなど、「編集者が驚いた写真しか載せない」という方針を取っている。動物の周囲の環境も含めて情報量の多い写真を厳選し、大きく掲載している。「いい写真がなければギリギリまで粘って、いいものが見つかるまで七転八倒している」と佐藤さんは苦労を話す。写真に子供たちが注目できるよう、なるべく少ない文字量で正しいことを伝えるという工夫もしている。

 2歳からを対象に、親が子供に読み聞かせもできる「はじめてのずかん」でも写真へのこだわりぶりは変わらない。例えば昆虫では通常、標本写真を使うことが多いが、「子供によっては生きているものと標本が違うと感じる子もいる」(佐藤さん)として、生きている昆虫の写真を使用している。

科学重視する姿勢

 「学研の図鑑」として昭和45年から学習図鑑を発行し、現在は「学研の図鑑LIVE」シリーズで24巻を発売している学研プラスは「サイエンス」を重視している。

 同社小中学生事業部図鑑・辞典編集室シニア・プロデューサーの松下清さんは「うちは学習科学というところから派生しているところがあるので、資料として正しい情報を科学的に伝えたいということがある」と語る。

 写真一つにしてもその姿勢は明確だ。「動物園でいいアングルの写真を撮ってもいい気がするじゃないですか? でも専門家の先生が『野生はこんなに太っていないので適していない』といわれることもあるので、そういう吟味もきちんとしている」と松下さんは話す。

 分類についても「仲間分けをして、一つ一つの特徴や違いを説明したりするのが本来の図鑑の定義」と重要性を強調する。例えば、動物の写真でも、足や尻尾など全体が見えるものを選び、ときには部位を切り抜いて紹介して違いが分かるようにしている。

 老舗の同社は、先駆的な内容の図鑑をいくつも出してきた。今では各社の定番となった危険生物。松下さんは「『危険生物を子供向けに出したらどうか』というアドバイスをしてくださる人がいて、うちが最初にやると予想をはるかに上回るタイトルになり、危険生物ブームのようなものが起きた」と振り返る。機械や道具の中の仕組みをめくって学べる「きかいのしくみ図鑑」は単体で20万部を突破、見せ方を変えて今年6月に出した「学研の図鑑LIVE もののしくみ」も好調という。

シンプルでも新しい

 昭和31年から学習図鑑を発行し続けている小学館。現在は平成14年からのシリーズ「小学館の図鑑NEO」を発行し、今年6月に出た「深海生物」で25巻を数える。

同社の個性について、北川 さんは「シンプルにスタンダードで新しいというイメージでやっている」と説明する。DVDを付けてエンターテインメント性を確保しつつ、伝統を大事にしている。

昭和31年から発行されていた小学館の「学習図鑑シリーズ」

 そのこだわりが最も表れているのは分類の並びだ。「ともすると、人気のあるものから紹介しているような図鑑もあるが、それはやめている。学術的に古いものから載せるようにしていて、一つ一つ研究者と協議して決めている」と北川さん。読者の年齢層は小学1年生を中心として、3歳から小学校6年生までを基本としているが、大学の教養レベルの内容を掲載し、大学の副読本として購入している学校もあるという。

 長く学習図鑑を発行し、基本にこだわるゆえ、同社の学習図鑑には最新の研究成果が盛り込まれている。最新の「深海生物」はこれまで作ることが難しかったタイトルの一つ。北川さんは「デジカメの時代になってきて、例えば深海生物だと研究者が写真家顔負けの写真を撮影できるようになって、1冊の本を作ることが可能になった」と説明する。

広がる図鑑ワールド

 人気が高まる学習図鑑の世界は本を飛び出し、インターネットや現実社会に広がっている。

 今月16日に東京・銀座にオープンした「ZUKAN MUSEUM GINZA powered by 小学館の図鑑NEO」は地球の自然を体験できる施設。小学館の北川さんは「人の動きに反応して生き物がそれに合わせて逃げていったり、出てきたりという疑似体験ができる」と話す。

 KADOKAWAは、インターネットで恐竜や動物のデジタルカードを集めらる「オンライン図鑑」を展開しているが、日本全国の恐竜の化石などを展示している博物館などとコラボし、新たなカードを手にできるという催しを実施。講談社は平成29年から、ライオンなど生き物になった体験を楽しめるイベント「MOVE 生きものになれる展」を東京や大阪で開催。現在は東アジアを中心に海外を巡回している。学研プラスも毎年、大型商業施設と組んだイベントを開催。このほか、学研の図鑑の「学び」をテーマにしたお菓子などのコラボ商品が、食品メーカーなどから販売されている。

 時代を経るにつれ、学習図鑑自体を読む年齢層も広がってきたという。学研プラスの小中学生事業部図鑑・辞典編集室図鑑チーム総括編集長の牧野嘉文さんは歴史を振り返り、「学習図鑑はよく小学生向けといわれるが、大人も入門書として読んでいたりした。時代を経ていくと、だんだん未就学児も見始めているという現象が出てきた。幼児は文字を読むことはできないが、映像を入れたら見ることができる。各社が状況に対応しようということでDVD付きの学習図鑑を出して、読者層が幼児まで広がった」と話している。

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