【奥村奈津美のミライ防災+】2021年は「福祉防災元年」高齢者や障がい者どう守る?

 災害時、最も犠牲となっているのは、ご高齢の方や障がいがある方々です。東日本大震災では犠牲者の過半数がご高齢の方、障がいのある方が犠牲となった割合は被災住民全体のそれと比較して2倍程度となっています。また、発災時だけでなく、その後の避難生活でも東日本大震災、熊本地震と、災害関連死のほとんどが60代以上です。その後、毎年のように起きている水害でも、ご高齢の方・障がいがある方が多く犠牲となっています。

 ご高齢の方や障がいのある方の命をどのようにして守るか。いつ起きてもおかしくない地震、そして、今年も雨の季節となり、豪雨の懸念がある中、喫緊の課題となっています。

2019年の台風19号の大雨で浸水した特別養護老人ホームから救出された女性=埼玉県川越市

 先月20日、改正災害対策基本法が施行され、避難行動要援護者の個別避難計画の作成が市区町村の努力義務になり、また、施行に合わせて、福祉避難所のガイドラインも見直されました。

 今後どのように変わっていくのか、国の「令和元年台風第19号等を踏まえた高齢者等の避難に関するサブワーキンググループ」の座長で、今回の改正の検討会メンバーとして議論を重ねてきた、福祉防災コミュニティ協会代表理事、跡見学園女子大学の鍵屋一教授に聞きました。

自力避難が困難な人の命を守る「個別避難計画」とは

 「避難行動要支援者」とは、災害時に自力での避難が困難な人のことです。市町村では、その方々をリストアップした「避難行動要支援者名簿」を作成してきました。しかし、誰をどのようにどこへ避難させるかといった個別の避難計画については、ほとんど決められていないため、名簿があっても命を守ることにつながっていない現状がありました。

 その理由とし、鍵屋先生は「個別の避難計画は、人手も時間もかかり、法的位置付けも弱かったため、優先順位が下げられていました。また、避難行動を実際に支援できるのは近所に住んでいる人たちなので、近所付き合いが少なくなっている今の社会ではより難しい。そのほか、個人情報の問題などもあり、なかなか進んでいませんでした」と話します。

 災害時の避難計画「個別計画」の制度が始まってから15年が経過していますが、名簿に掲載された全員の個別避難計画を策定している市町村はわずか12%(令和元年消防庁調べ)。そこで、今回の法改正では、この個別避難計画を市町村の努力義務に優先順位を上げ、また福祉専門職の関与を強く推奨しています。

 「すでに大分県別府市や兵庫県では、要支援者と日常的に信頼関係のある福祉専門職が個別計画の作成に関与しています。優先度の高い人、例えば、ハザードマップで3m以上の浸水リスクのある人や土砂災害特別警戒地域に住む人から作成を進めてほしい」とガイドラインを通じて呼びかけています。

 今年度、34市区町村、18都道府県が参加して「個別避難計画」策定のモデル事業が実施され、6月15日には内閣府でキックオフミーティングが行われます。自力では避難が難しい方々を地域社会全体で支援する仕組み作りをどのように行っていくのか、注目したいです。

一般の避難所が難しい要配慮者は直接「福祉避難所」へ!

西日本豪雨で宙吊りになった線路。出水期を迎え、改めて避難先の確認を進めておきたい=2018年7月、広島県東広島市

 今回もう一つ大きな見直しが行われたのが、「福祉避難所」のガイドラインです。災害から命を守った後の避難生活において重要な役割を担う避難所です(参考:内閣府「福祉避難所の確保・運営ガイドライン」

 「福祉避難所」とは、一般の避難所では難しい災害時要配慮者の方を受け入れる避難所のことです。これまでの災害では、この福祉避難所が機能していないことにより、一般の避難所に行くことが難しい認知症の方や知的・精神障がい者、乳幼児などは避難する先がなく、車中泊や被災した自宅にとどまるなど、過酷な環境で避難生活を送っていました。

 鍵屋先生は、これまでのガイドラインは誤解されていたと話します。「多くの自治体で福祉避難所は二次避難所として数日経ってから開設される、直接行ってはいけないなどの誤解した運用が行われていました。また、避難所で具合の悪くなった人を移送するとしていて、そもそも避難所で具合を悪くしてはいけないですし、移送するのに多大な調整や労力、時間を要してしまっていました」

 東京23区の福祉避難所を取材してみても、どの自治体も二次避難所という扱いでの指定となっていて、中には場所を公開していない自治体もありました。これまで取材した過去の災害では、直接避難できるよう、台風災害などでは発災前に福祉避難所を開設していた自治体もありましたが、ごく一部でした。

 そういった誤解を解くためにも、今回のガイドラインの見直しでは、できるだけ事前に要配慮者と福祉避難所をマッチングさせ、直接避難できるような形にするよう明記されました。また、高齢者施設に障がい者が避難しても十分な対応が難しいなどの福祉避難所の負担を軽減するため、たとえば特別養護老人ホームなら高齢者向け、特別支援学校なら障がい児向けなど、対象を特定できるようにしています。

 「一般の避難所を経由せずに、普段行き慣れた施設や学校に避難できるので、安心して避難できるようになる」と鍵屋先生。一般の避難所には避難できない方にとって、命を守るための選択肢が増えることを期待したいです。

「災害は弱い者いじめ」⇒「誰一人取り残さない」社会へ

 これまでは防災と福祉の間に大きな溝がありましたが、今回の改正で、福祉と防災が一体となる体制が初めてできたと、鍵屋先生は話します。

 「個別避難計画を作るときに、福祉専門職の方が重要な役割となります。例えば、介護を受けている人はケアマネさんやヘルパーさん。障がいの支援制度を受けている人でしたら、相談支援員さんなど。日常支援している人と当事者が話し合って、それから地域の人に繋いでいくことになります」

 「また、福祉避難所としての役割も担う福祉施設自体もBCP(事業継続計画)を作ることが義務化されたので、これから3年以内に、災害が起こったあとどのように福祉サービスを継続するかという計画を作ることになります。防災で命を守り、福祉で尊厳を守る。歳をとっても、障がいがあっても、安全安心、災害は怖くないという社会を作る第一歩が、今年、2021年と考えています」

 「災害は弱い者いじめ」という言葉通り、これまでは平時から弱い立場の方々が、災害が起きると、より厳しい状況に置かれるということが繰り返されてきました。SDGsの原則でもある「誰一人取り残さない」社会を目指して、一人ひとりが積極的に地域防災に関わることが求められています。

 あなたの大切な人は、一人で避難できますか?安全に避難できる場所はありますか?まずはご家族で話し合ってみるのはいかがでしょうか。

鍵屋一先生へのインタビュー動画はこちら

《2021年5月6日に開催した「2021年は福祉防災元年 福祉避難所とは?ガイドラインの見直しでどう変わる?」は、公式Youtube「ミライ防災+」より鍵屋一先生のご講演の全編をご覧頂けます》

■奥村奈津美(おくむら・なつみ)
防災アナウンサー×環境省アンバサダー。1982年、東京生まれ。広島、仙台で地方局アナウンサーとして活動。その後、東京に戻りフリアナウンサーに。TBS『はなまるマーケット』で「はなまるアナ」(リポーター)を務めるほか、NHK『ニュースウオッチ9』や『NHKジャーナル』など報道番組に長年担当。東日本大震災を仙台のアナウンサーとして経験。以来10年間、全国の被災地を訪れ、取材や支援ボランティアに力を入れる。防災士、福祉防災認定コーチ、防災教育推進協会講師として防災啓発活動に携わるとともに、環境省 森里川海プロジェクトアンバサダーとして「防災×気候変動」をテーマに取材、発信中。2歳児の母。著書「子どもの命と未来を守る!防災「新」常識~パパ、ママができる‼︎水害、地震への備え~」(辰巳出版)。毎週オンラインで防災講座を開催中!

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