【馬渕磨理子の新富国論②】データビジネスの将来像

「情報銀行」は生活者を豊かにするのか

 GAFAに代表される巨大プラットフォーマーの出現により、暮らしは便利になったものの、私たちの意図とは異なる形でパーソナルデータが利用される現状を目にすることが多いです。そこでいま、日本の企業群が立ち上がり「真の意味で私たちの生活を豊かに」するために連携をはじめています。

 2018年より総務省、経済産業省が連携して、個人の了解を得たうえで、個人のデータの流通・活用を進める仕組みである「情報銀行」の社会実装を推進しています。2021年以降、この市場はより本格化すると見られています。

 明治大学専任教授の野田稔氏は「日本人は、日本の企業が連携してパーソナルデータを扱うと聞くだけで、どこか“予期不安”を持ち、抵抗感を持つ人もまだ多いです。しかし、様々な場所に散らばっているデータを統合・流通させることによって、消費者の生活や企業のビジネスに大きなベネフィットをもたらす可能性がある」と話します。

顧客体験に繋がるサービスとは

 時代の流れを受けて、産経新聞社は4月23日に、オンラインセミナー「データ流通新時代~DX時代を生き抜くデータ利活用」を開催しました。平井卓也デジタル改革担当相がビデオメッセージを寄せ、「情報銀行は日本発だ。政府としても支援する。トラスト(信頼)を重視した日本流のデジタル化を進める」と述べています。

 内閣官房IT総合戦略室の田辺光男参事官の基調講演では「データ基盤構築に向けたデータ戦略」と題して、海外のデータ戦略と比較し、国内のデータ戦略タスクフォースについて政府の方向性を示しました。野田専任教授は「金融における“銀行”はお金という力で産業を育成することに寄与してきました。これからの時代、情報産業や日本企業が国際競争力を持つために、“情報銀行”がその名の通り“銀行的”な役割を果たすだろう」と話しています。

 また、人口の7割の個人情報を扱うカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)マーケティングカンパニーの田代誠副社長はコミュニケーションの思想について「データを使っていかに効率化するかに焦点があたっていますが、効率的になった後の社会のほうが重要。効率化によって生まれた時間に対して、ユーザーが幸せになれるのかまで考えていく」と言及しています。

 マイデータ・インテリジェンスの森田弘昭取締役COO(最高執行責任者)は「顧客体験をいかに充実させるか。それぞれの個人に寄り添いながら、どうすれば満足してくれるのかの視点が大切です。企業同士が連携することで、断片的な情報を集めていくことがポイントになる」と述べています。

 日本IT団体連盟の井上貴雄理事(情報銀行推進委員会委員長)は「日本人には独特の倫理観を持っており、パーソナルデータを扱う点においても日本ならではのルール作りを行っていくべきだ」と見解を述べています。

 また、大日本印刷の勝島史恵マーケティング本部ソーシャルイノベーション研究所副所長は「プライバシーをしっかりと守りながら、情報銀行は“人生のコンシェルジュ”として寄り添うことができる。パーソナルデータを預けることで、ユーザーが自分自身でも気づいていない可能性について提案することまでもできるようになる」と情報銀行の可能性に言及しました。個人情報を安全に有効活用する方策について政府、民間での取り組みが動き出しています。

日本の「礼」「倫理観」が国際競争力

 IT連の井上氏の「日本独自の倫理観」はキーワードではないかと思います。日本人が世界に誇るべき点は「倫理観」や「礼」の精神だと思います。日本人の行動が、世界の人々を感動させる事例は数多くあります。例えば、アメリカで最も伝統と権威あるゴルフ大会の一つ、マスターズ・トーナメントにおける松山英樹選手の優勝は感動を与えました。

 その背景にあり、もう一つ大きな話題になったのが、松山選手を支えた早藤将太キャディーの「お辞儀」です。試合後、早藤キャディーが記念のため最終ホールのピンから旗を取った後、帽子を脱いでコースに一礼する姿が、ニュースで報道されネットでも広く拡散されました。日本人らしい礼儀正しさだけではなく、彼のゴルフへの深い愛と感謝、リスペクトを感じて涙が出たといったコメントが続出しています。CNNでは、このお辞儀こそが、日本人の悲願をついに実らせた松山選手の勝利を象徴していると報道しています。

 我々がまだ気付いていないだけで、日本独自の「倫理観」には、人の心を打つ力があるのです。これが、日本の強みではないでしょうか。日本らしさを大切にした、サービスこそが、真の意味で生活者を豊かにすると考えています。

 なぜならば、次に述べるように、人類の幸福度は一定(プラトー)に達し、経済的豊かさを手に入れた成熟した人間社会において、人類が次に欲しくなるものこそが、「最も価値が高い」ものになります。このステージにおけるサービスを提供できた者が、「次の時代の覇者」となると考えています。私の認識では、まだ、ここに当てはまる企業は出てきていませんが、GAFAは恐らくここを見据えているのではないでしょうか。

3フェーズ、私には世界がこう見えている

 人類は今、大きな「社会的課題」(第1フェーズ)である「環境問題」と「効率化」のに直面しています。我々が思うが儘に歴史を積み重ねたことで地球が悲鳴をあげており、この先も人類が永続的に存続するために持続可能な社会を作る必要性に迫られています。そこで「SDGs」「グリーンエネルギー」「EV(電気自動車)」というテーマの柱が立ち上がっています。

 人類は経済成長という目的を果たし、幸福度もプラトーに入っています。今のステージで求められているものが「効率化」であり、解決するための「技術・手段」(第2フェーズ)が「5G」「DX」「半導体・パワー半導体」「セキュリティ」です。これらの技術進歩を伴いながら、私たちは「未来都市」(第3フェーズ)に向かっています。しかし、田代氏の述べるように、国内の議論は第2フェーズの「効率化」にばかり焦点が当たっています。企業は、今の段階から第3フェーズを見据えた行動が求められるのは間違いないでしょう。

+αヒューマニティ、ネクスト・ヒューマニティ・シティー

 ここで述べる「未来都市」は既存の「スマート・シティー」とは異なる概念です。「スマート・シティー」は「効率化」と「環境」がキーワードであり、IoTの先端技術を用いて、インフラ・サービスを効率的に管理・運営し、環境に配慮した新しい都市のことです。

 私は「スマート・シティー」の定義に、+αヒューマニティ「価値」向上の要素が加わった「未来都市」=「ネクスト・ヒューマニティ・シティー」たる概念が必要だと考えています。技術的な快適さと経済的な富を得た先に、真の意味で豊かさを感じる社会を人類が望んでいるからです。

 人類は、「人間性の本質回帰のフェーズ」に入っています。例えば、努力でしか得られない時の高揚感や心の充実、あるいは、積み重ねた先にしかない信頼、文化的な土壌、健康、永遠の寿命…。言い換えれば、「精神的報酬」を得られる社会を求めているのです。そういった意味で、「情報銀行」の取り組みは「精神的報酬」を与えることができるプラットフォームになり得るのではないでしょうか。

■馬渕磨理子(まぶち・まりこ) 
経済アナリスト。フジテレビ『Live News α』レギュラーコメンテーター。ムック本『ギガトレンド 馬渕磨理子』がヒット中。プレジデントオンライン6,000万PV超。『PRESIDENT』『週刊SPA!』『日経CNBC』『ダイヤモンド』『ラジオ日経』など連載・出演多数。ミス同志社。京都大学公共政策大学院卒(修士)。https://twitter.com/marikomabuchi

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