【コロナ禍の入院・介護・看取り】すい臓がんの夫を見送る㊤

世界中に猛威をふるい続ける新型コロナウイルスは、終活の世界にも大きな影響を与えています。感染防止を理由に、入院した家族に面会できず、最期のお別れも容易ではない現状です。一方、コロナ禍で家族の絆の大切さを改めて感じている人も増えています。お別れの現状と今後を紹介します。

家族でつくった「穏やかな時間」

千葉県長生村の相馬緑さん(ライター サトサトシ)

 あらゆる社会活動が制限されたコロナ禍。こんな状況で家族が余命宣告を受けていたら、私たちはどのように寄り添うことができるでしょうか。2020年9月、すい臓がんで夫を亡くした千葉県長生村の相馬緑さん(62)。感染防止のため面会もままならない「手かせ足かせ」のコロナ禍に翻弄されながらも、家族で精いっぱいに支え、見送った大切な日々を振り返ってもらいました。

たくさん思い出をつくるはずが…

この海岸近くのレストランで食事を楽しむ。相馬利昭さん(中央)から時計回りに長男・純さん、義母・千葉志げさん、妻・緑さん、長女・すみれさん=2020年2月、千葉県富津市(相馬緑さん提供)

最後まで、はつらつとした表情

 相馬さん宅の和室の祭壇には、穏やかにほほ笑む夫、利昭さん(享年61)の遺影が飾られていた。

 「亡くなる20日くらい前に撮影したものです」と緑さんは話す。遺影の利昭さんは、深刻な病気を患っているとは思えないほど、はつらつとした表情だ。

 ふたりは地元中学で同級生だった。クラブ活動も同じ吹奏楽部。そのころは「意識していませんでした」(緑さん)というが、成人後、帰省する電車の中でバッタリと再会し、交際が始まったという。

 利昭さんは当時、趣味のアマチュア無線で仲間と交信しながら、車を運転するのが好きだった。緑さんはそうしたドライブ・デートによく付き合ったそうだ。

 ふたりは26歳で結婚した。一男一女に恵まれ、幸せな家庭生活が続いた。ところが、2019年10月、状況が一変してしまった。

最初は「黄色人種だから…」

 「顔が真っ黄色ですよ」。利昭さんは働いていた介護関係の職場で、同僚から指摘された。冗談が大好きだった利昭さんは、その場では「黄色人種だから」と笑い飛ばしていた。しかし、東京都内の大学病院で受けた精密検査の結果は、利昭さんにとっても、家族にとっても、あまりに非情なものだった。

 「第4期(ステージ4)。末期のすい臓がんです。このままですと、もって3カ月。治療を施しても、平均余命は11カ月程度です」

 即座に入院となった。手術は難しい状態で、黄だんを取り除く治療が開始された。

 利昭さんは予感していたのか、「淡々として、落ち着いた様子でした」(緑さん)。そして「抗がん剤を打っても延命できないなら、経済的な負担が大きくなるから、やらないほうがいいんじゃないのかな」と冷静に話すこともあったという。

 相馬家では、がんに関しては緑さんが〝先輩〟だった。2000年と07年に乳がんを経験しており、その後は再発していない。緑さんは、主治医の勧めもあり、利昭さんに自宅から近い千葉県内の病院に転院することを提案した。

 今後の治療と、利昭さんの看取りも覚悟しての選択だったという。緑さんはこのとき、「家の近くなら、いつでもお見舞いに行ける」と考えていた。

「来年も一緒に…」祈る思いのお花見

果たせなかった温泉旅行

 19年11月、千葉県内の総合病院に転院。2週間に一回、病院に通院し、抗がん剤治療を始めた。ただし、一回あたり3日間を要したという。「主人は幸い、食欲もあり、元気でした。だからこそ、今のうちに思い出をたくさんつくりたい、と思っていました」。

 相馬家は夫妻のほか、団体職員で県内に住む長男、純さん(32)、会社員をしている横浜在住の長女、すみれさん(27)の4人。そこに、緑さんの母、千葉志げさん(96)を加えての家族旅行を計画していた。

 ところが、翌20年は一家をさらに苦しめる幕開けとなった。

 「1月に富士山に近い宿で、夫に温泉を楽しませてあげたいと考えていました。でも、新型コロナの騒ぎで中止せざるを得ませんでした」

 当時、新型コロナウイルスは中国の武漢で感染が拡大した。1月23日には同市が都市封鎖された。足元に忍び寄ってくる未知の感染症に、日本中が怯え始めた時期だった。

 利昭さんの抗がん剤治療は6月まで続いた。社会不安が深まるなかで、告知から刻々と時間だけが過ぎ去っていった。投薬を重ねるにつれて、副作用のつらさも増した。手足が痺れるストレスからか、「どうせ死んじゃうんだから、もうどうでもいいよ」と投げやりに言うこともあったという。

息子の奢り 格別だったうな重

2020年7月、家族で訪れた地元の人気店でうな重を楽しむ相馬利昭さん

 それでも、いい時間もたくさんつくることができたという。緑さんは「コロナ禍だったからこそ、穏やかな時間を家族で過ごせたのかもしれません」と振り返る。多くは地元でのドライブだった。温泉旅行を断念した後の20年2月、家族そろって県内の海岸を訪ね、海の幸を楽しんだ。

 3月には夫婦水入らずで、銚子市に出かけた。感染防止のため、外食は控えた。海沿いの駐車場に停めた車内で、持参のおにぎりや菓子をほおばりながら、犬吠埼灯台をゆっくりと眺めた。4月はお花見。「来年も来られますように」と祈るような気持ちを抱きながら、夫婦で桜並木を見上げた。

 利昭さんの好物だったうな重は、3回も食べに出かけた。長男の純さんがボーナスでごちそうしてくれたときは、「美味い、美味い」と喜んでウナギを口に運んでいたという。

㊦につづく

※『終活読本ソナエ』2021年春号より

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