【データ×未来】(中)個人情報は誰のものなのか

 新型コロナウイルスの感染拡大に見舞われた昨年2月の中国浙江省杭州市。あるタクシー運転手の感染が確認されると、当局は過去14日間に乗せた利用客ら200人余りを瞬時に割り出し、濃厚接触者として隔離措置をとった。彼らの移動履歴は、監視カメラやスマートフォンの決済アプリの記録から筒抜けだった。

 中国政府は感染抑止で効果を発揮したと、中国式デジタル監視システムへの自信を深め、個人データを利用した監視・管理を露骨に強めている。感染者が出た地域から自宅に戻ると、公安当局者から隔離措置を命じられることも一般的だ。

 一方、欧米では、人々の属性や行動履歴、通信記録といった情報が、広告などとつながって富を生み出す「データ資本主義」が転換点を迎えている。

 デジタル市場の覇者となった検索大手グーグルや会員制交流サイト(SNS)フェイスブック(FB)など米国の巨大IT企業に対し、欧州連合(EU)は、厳格なデータ利用のルールを設けた「一般データ保護規則」(GDPR)を2018年に施行。個人データを膨大な収益につなげる米国流に「待った」をかけたのだ。

 仏当局がグーグルに罰金5千万ユーロ(約65億円)を科した19年以降、各国が罰金などの対応を活発化。多国籍法律事務所「DLAパイパー」によると、20年の1年間の罰金総額は、18年5月のGDPR施行後の1年8カ月間の累計額より39%多い1億5850万ユーロに上った。

 これまで自国企業を縛るルール整備に及び腰だった米国も規制強化にかじを切る。3月下旬、米議会がグーグルやFB、短文投稿サイトのツイッターの首脳を呼んだ公聴会では、与野党の議員から「(企業側の)自己規制で済む時代は終わった」と、踏み込んだ規制を訴える声が相次いだ。

 18年にFBによる個人情報の大規模流出が発覚して以降、利用者の間で「自分のデータがどう使われているのか分からない」との不信が強まった。公聴会では議員からデジタル市場を監督する「新たな公的機関を設ける」案まで飛び出した。

 米国では州の規制強化が先行。カリフォルニア州が「米国版GDPR」と呼ばれる「消費者プライバシー法」(CCPA)を昨年7月に運用開始した。バージニア州も先月、「消費者データ保護法」を成立させた。

 議会も連邦法制定に乗り出す構えで、グーグル、アマゾン・コム、FB、アップルの「GAFA(ガーファ)」に、事業の分割を迫るべきだとの論調も勢いを増している。

 データは誰のものか-。そんな問いに対する答えを各国・地域が模索する中、世界に「3大勢力圏」が浮かび上がりつつある。

 個人データの利用で「本人の合意」を原則としたEUに対し、中国は「データは国のもの」との立場から政府へ情報提供を強要できる法体系を敷く構えだ。

 米国はIT業界の技術革新を重視し、企業の自主規制に任せる「放任主義」だったが、個人情報保護やデータ管理に政府が関与する方針に転換しつつある。

 中国式の「データ専制主義」ではなく、「デジタル市場の君主」となったGAFAが牛耳る世界でもない。そんな「利用者中心」のデータ利用の在り方が求められている。

【用語解説】EUの個人情報保護規則

 欧州連合(EU)は2018年5月、個人情報管理をより厳格化する新規則「一般データ保護規則」(GDPR)を施行。欧州と取引などがある企業などが収集した個人を直接、間接に特定できる情報の域外移転は、データ保護が十分と認められない限り、原則として不可能になった。

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