【データ×未来㊤】現実を超える仮想空間の「分身」 自分に代わり仕事、未来も予測

 朝、目覚めると会社の会議で説明する資料ができていた。寝ている間に自分の「分身」が仕事をしてくれたようだ。昨日、会社から転勤の辞令を受けたが、従おうと思う。3年後に増える給料は、家族と別れて暮らすデメリットを上回る。自分そっくりの3次元映像が教えてくれた。このままの食生活が続けば5年後に病気になるとも言われた。お昼は弁当にしよう-。

 こんな暮らしが、「デジタルツイン(仮想空間上の双子)」と呼ばれるIT技術で可能になろうとしている。社会活動や生活で収集した膨大な個人データを活用し、分身が自分に代わって仕事を片付け、未来を予測し、人生の岐路で賢い判断を促してくれるのだ。

 さまざまなモノがインターネットでつながる「IoT」(インターネット・オブ・シングス)で、身の回りの情報が連動し始めた。自宅の冷蔵庫内の食料とネット情報の天気予報を組み合わせて、自分にお勧めの夕飯の献立がスマートフォンに表示されるといった具合にだ。

 あらゆる個人データは仮想空間に保存され、「本人」そのものを表現できるほどに肥大化している。人工知能(AI)で、それらデータの塊が思考力や感情を併せ持てば、もうひとりの「自分」が完成する。

 デジタルツイン技術は、製造業や建設現場ですでに実用化されている。日立製作所は、AIによる製造工程の管理システムを商用化した。仮想工場は、需要予測や物流情報などさまざまなデータを取り込み、本物のように「稼働」する。サプライチェーン(調達網)に組み込めるとAIが判断すれば、取引実績のない企業の製品やサービスも採用する。長年のつきあいといった、従来の商習慣には縛られない。

 データの価値が高まっていく一方、ますます重要になるのがサイバー攻撃への防御だ。日立のリーダ主任研究員、宮本啓生は「常に攻撃を受ける危険にさらされていることが前提の『ゼロトラスト』(何も信用しない)の考え方が広がっていく」と話す。

 高速通信やAIなどのIT技術が発達した今、趣味や交友関係、健康など、見過ごされてきた多様な個人データを利活用すれば、人々の暮らしは劇的に改善し得る。企業は詳細かつ膨大な個人データを使い、売れる製品やサービスを素早く開発して新たな需要を創出し利潤を増やす。業績改善で賃金が上がれば、消費も拡大する経済の好循環が生まれる。

 だが、個人データが悪用されれば、世界は暗転しかねない。そんな恐れが、国内8600万人が利用する通信アプリ「LINE」で起きた。自分の思想や嗜(し)好(こう)など「内面」が詰まったデータを保管していた国内サーバーに、中国の関連会社がアクセスしていた実態が明らかになった。データが国家に強制搾取される法制度を持つ中国に、性善説は通用しない。

 仮想空間の「自分」が攻撃される危険が高まる。個人データを守る最後のとりでは自分自身だ。自分のデータが「何に使われているのか」「何に使われたくないのか」を把握し、自分で管理することが、その第一歩となる。=敬称略

 巨大IT企業の台頭で、個人データの利活用の在り方が注目されている。個人データをめぐり、国家や企業とのあるべき関わり方を探る。

【用語解説】デジタルツイン(Digital Twin)

 現実世界から収集した多様なデータを利活用し、まるで双子であるかのように「自分」を仮想空間で再現するIT技術。限りなく現実に近い物理的な環境設定で、製造工程やサービスの在り方を改善する手段になるため、製造業界などで技術応用が始まっている。

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