【マンション業界の秘密】モデルルームを信用するな 客を冷静にさせず、後戻りできないところまで誘導

物件選びの際、モデルルームを見て舞い上がってはいない

熟考させない「販売テクニック」

 新築マンションの販売テクニックにはさまざまあるが、基本は客に冷静さを失わせるように仕向けることである。多くの場合、人は熟考すると慎重になり、購入を決断しなくなる。

 そこで、販売側は仕掛けを用いて、客が冷静にならないように誘導する。その最たるものはモデルルームだ。

 モデルルームには、何十種類もある間取りの中から最も空間のゆとりが感じられて、機能性の高いタイプを選ぶ。そして、室内を普通ではあり得ない空想的なデコレーションで飾り立てる。一種のイリュージョンである。多くの人は、その空間の華麗さに惑わされる。心を高ぶらせるのである。

 ただ、冷静に考えてみると、そこは現実とはかけ離れた世界である。モデルルームのように室内をしつらえて暮らす人など、まずいない。

 さらに、ほとんどの人はモデルルームの間取りとは異なるタイプの住戸を購入する。だから、参考になるのは基本的な仕様のみである。

 2年ほど前、大阪のテレビ局から「プロが教えるモデルルームのチェックノウハウ」みたいな企画に駆り出された。

 以前、当欄でこの件について少々触れたことがあるが、撮影現場で私はこう尋ねた。

 「ほめた方がいいですか。それとも辛口で行きますか」

 すると答えは「辛口で」。遠慮なくやって差し上げた。まず玄関。「この鏡は空間を広く見せる演出ですよ」。キッチンでは「冷蔵庫がないでしょ。これも広く見せるため」。ベッドルームでは「ちょっと横になってみて。足がはみ出るでしょ。こういう家具は特注で、ひと回り小さく作るのですよ」

 撮影が進むと、立ち会っていた担当の広報部員は「これを全部放送されたら、ぼくはクビだ」と顔面が蒼白になっていた。

 結局、私が指摘したところはほとんどオンエアされず、広報さんの首が飛ぶこともなかった。

 私は何百というモデルルームを見てきたので、表も裏も分かる。しかし、一般の人は、モデルルームを見ると「こんな暮らしができるのか」と心を躍らせる。

 そして、販売担当者に商談コーナーへ案内される。彼らは事前に書かせたアンケートに合わせて3種類くらいの間取りを勧める。「ほかにないのか」と尋ねても、「今お出しできるのはこの3タイプだけです」と返答される。

 なるべく客に迷わせないためのテクニックだ。客の選択の余地を狭めることで、早期の決断を促すのである。

 さらに「今お申し込みいただかないと、明日には他のお客さまがご購入になる可能性があります」などと、即決を要求する。

 抽選で当たった場合は「明日、手付金〇〇〇万円をご用意ください。でないと、権利が他の人に移ります」と言って、即座の契約を促す。

 客は迷うと買わない。そのことを彼らはよく知っている。だから、彼らは、モデルルームでの接客から正式の購入契約まで最短時日で走ろうとする。

 客の心がハイになっているうちに、後戻りできないところまで導こうとするのだ。


 ■榊淳司(さかき・あつし) 住宅ジャーナリスト。同志社大法学部および慶応大文学部卒。不動産の広告・販売戦略立案・評論の現場に30年以上携わる(www.sakakiatsushi.com)。著書に「マンションは日本人を幸せにするか」(集英社新書)など多数。

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