【加藤梨里のお金と健康】元気でも相続対策は必要? 年末年始の帰省で確認したい親の資産状況

そろそろ年末年始の予定を立てる時期になりました。コロナ禍で去年は帰省を控え、今年久々に帰省する人も少なくないでしょう。実家の親が高齢の場合、このタイミングで考えておきたいのが相続対策です。相続というとお金持ちの家にしか関係ないと思いがちですが、必ずしもそうではないのです。当欄では年末の2回にわたって、相続対策についてお届けします。

元気なうちに始めておきたい、相続対策の第一歩

 親が高齢になってくると心配なことのひとつに、病気やけがをしたときや亡くなったときが挙げられます。本人は元気なつもりでいても、子の立場からみると実は気がかり……ということがよくあります。特に離れて暮らしている場合には、帰省の目的は親の様子を見に行くことだったりもするでしょう。

久々に帰省する人は、相続対策について考え直す機会かもしれない

 実家に帰るときにもうひとつ意識しておきたいのが、将来の相続のことです。せっかくの帰省で、亡くなる時のことを考えるなんて縁起でもないと感じるかもしれません。しかし、ひとくちに相続対策といってもやることはとても幅広く、まだまだ晩年まで時間がある頃から始めておきたいことがたくさんあるのです。

■相続税がかからないと思っていても……親はいくらお金を持っているのか?

 相続対策としてよく知られているのが、相続税がかからないかどうかを確認したり、非課税におさまるように資産を整理したりすることです。相続税には基礎控除があり、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」までは課税の対象になりません。たとえば父親が亡くなり、法定相続人が母親と子2人なら、基礎控除額は4,800万円ですので、父親の遺産がそれ以下であれば相続税の課税はありません。

 このことから、「うちには相続税がかかるほどの財産はないから大丈夫」という人がいます。しかし、本当に財産がないかどうかは確かめておいた方がいいでしょう。内閣府の「令和3年版高齢社会白書」をみると、60歳以上の世帯の2割近くは4,000万円以上の貯蓄を保有しています。ここには預貯金や株式、投資信託などが含まれていますが、相続税ではほかにも、自宅や別荘などの不動産、ゴルフ会員権、宝石や貴金属、骨董や絵画も課税対象に含まれます。親が亡くなったときにこれらの財産の評価額が高ければ、基礎控除を超えてしまう可能性があります。

貯蓄額による世帯分布。 60歳以上の世帯の2割近くは4,000万円以上の貯蓄を保有して いる(出典:内閣府「令和3年版高齢者白書(全体版)」)

 そもそも、親がどれくらいのお金を持っているのか、子世代にはわからないことがほとんどです。蓋を開けてみたら想定以上に遺産があって、相続税がかかりそうとなれば、10カ月以内に申告しなければなりません。しかし遺産の内容や評価額の確認、遺産相続の話し合いに時間がかかり、10カ月があっという間に過ぎてしまうケースは珍しくありません。

 納税資金の準備も必要です。遺産に現金が十分に含まれていればそれを充てることができますが、不動産など換金に時間がかかる資産が多いと、相続人になる子などが捻出しなければならないことがあります。親が長生きするにつれ預貯金が少なくなっていけば、そのリスクも高まります。親にはどんな資産がどれくらいあるのか、おおまかでもいいので早いうちから知っておくことがとても重要です。

■親が亡くなると預金や保険、水道光熱費など膨大な手続きが必要

 仮に相続税がかからない場合でも、相続対策が不要というわけではありません。人が亡くなったときにはさまざまな手続きが発生するためです。死亡届やお葬式の手配はもちろん、年金や健康保険などの公的制度、水道・電気・ガス・電話・新聞の停止、生命保険の受取り、銀行口座の解約、不動産の名義変更などです。

 これらの手続きでは本人と相続人全員の戸籍謄本など、多数の本人確認書類を提出します。手続きに入る前に、書類の取り寄せに手間がかかります。何よりどこにどんな契約があるかを把握しないことには始まりません。

 年金手帳、預金通帳やキャッシュカード、保険証券や契約内容のわかる書類などを探すのは、保管場所を知らされていなければ家族でもかなり大変です。契約しているサービスやその連絡先、重要書類をまとめておいたり、家族内でわかるようにしておいたりするだけでも、相続対策として有効です。

■判断能力がなくなると預金口座を引き出せなくなる

 こうした準備は、病気や認知症などで本人が身の回りの手続きをできなくなったときにも役立ちます。たとえば預貯金は、認知症や老化などによって本人に判断能力がなくなると、家族でも引き出せなくなります。いわゆる「口座凍結」です。

 例外的に、生活費や医療費、介護施設の費用など、本人のために必要な引き出しの場合には認められることがありますが、本人確認書類や、代理で引き出す人と本人との関係がわかる書類、病院や介護施設からの請求書など、使い道がわかる書類などを提出して金融機関に相談が必要です。本人の預金のことを把握しておくと、このようなときに家族の負担を軽減できるでしょう。

 なお、家族がお金を継続的に引き出すときには、代理人制度や財産管理サービスを利用できる金融機関もあります。また、法的な手続きをへて、認知能力が低下した人の代わりに財産管理や契約手続きを代行する「成年後見制度」を利用することもあります。

成年後見制度についての解説(全国銀行協会ホームページより)

 いずれにしても、こうした準備は本人が元気なうちに始めておく方が、いざというときの手続きがそれほど煩雑にならず、選択肢が広くなるといったメリットがあります。家族の間でもお金の話はしづらいものですが、相続以前の問題でもあります。相続対策のためというと気分を害されるかもしれませんが、お互いに安心して過ごすために大事なこととして、少しずつ話をしておけるといいですね。


■加藤梨里(かとう・りり)ファイナンシャルプランナー(CFP®)、金融知力インストラクター、健康経営エキスパートアドバイザー、マネーステップオフィス株式会社代表。保険会社、信託銀行、ファイナンシャルプランナー会社を経て独立。専門は保険、ライフプラン、健康とお金。大学では健康増進について研究活動を行い、健康経営のコンサルティング支援をした企業が中小企業のトップ500「ブライト500」に認定。

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