【加藤梨里のお金と健康】認知症の人が賠償事故を起こしてしまったら? 自己負担なしで加入できる保険も

高齢のご家族がいるご家庭では、将来にご家族が認知症になったときについて心配することがあるのではないでしょうか。認知症を患ったとき、周囲の人には身の回りの介助や施設・リハビリへの通所のサポートなど、時間的・体力的な負担とともに、治療にかかる医療費や介護費用など経済的な負担もかかります。また、認知症の人が徘徊中などに思わぬ事故を起こしてしまったときには、高額な賠償責任を負うこともあります。近年、認知症の人を対象に、地域で加入できる賠償責任保険が全国各地で導入されています。

■認知症による事故、家族が賠償責任を負うことも

 日常生活では、うっかりしたことで思わぬ事故につながることがあります。運転中にアクセルとブレーキを踏み間違えて事故を起こしてしまう、水道の蛇口を閉め忘れて出しっぱなしにし、階下まで水漏れさせてしまう、たばこや火の不始末で火事を起こしてしまうーなどです。認知症になると、日常生活で起きている物事や状況の理解力、判断力の低下が影響して、こうした事故を招くおそれがあります。

 事故によって人にケガをさせたり、人のモノを壊したりしたときには、民法上の賠償責任を負います。認知症が原因で、自分の起こしたことの責任を理解する能力がない人は「責任無能力」として賠償責任を負わないこととされていますが、その家族には監督義務を怠ったとして賠償義務を課されることがあります。

 賠償責任を負うと、生じさせた損害の規模に応じて賠償金を支払うことになります。自動車事故を起こして人を死亡させてしまった、水漏れや火災を起こして他の人の家・部屋を使えなくさせてしまったようなケースでは、賠償額が数百万円や数千万円規模に上ることがあります。このような高額賠償を負うことになれば、家族にはあまりにも大きなダメージでしょう。

■全国約60市町村、自己負担ゼロで保険加入可能

 こうした事態での負担を軽減するために、住民の賠償責任を補償する行政の制度が全国で広がっています。高齢者や認知症の人を対象にした個人賠償責任保険を、市町村が整備するものです。「認知症高齢者等個人賠償責任保険事業」「高齢者あんしん補償事業」などの制度名で、現在約60か所の市町村が行っています。今年4月には滋賀県大津市、6月に東京都昭島市が導入するなど、制度を設ける地域が増えてきています。

 制度に加入すると、認知症の住民がもしも事故を起こして他の人に損害を与えてしまったときに、保険から賠償金が支払われます。自治体が保険会社と契約し、最大で1億円や3億円など高額な賠償にも対応できるようになっています。一部の地域では賠償責任の補償だけでなく、ケガをしたときに給付金が支払われる、賠償責任がなくても見舞金が支払われるところもあります。

 多くの地域では住民に保険料の自己負担はありません。保険料がかかる地域でも一部費用の補助をしており、自己負担は年間千円~数千円程度が中心です。診断書など認知症と診断されていることがわかる書類とともに地域の窓口に申し込むことで、補償の対象になります。

■すでに加入している自動車保険などで対象になることも

 保険会社に自分で契約する保険でも、賠償責任に対応できるものがあります。自動車保険、火災保険、傷害保険などの特約(オプション)として、個人賠償責任保険を付帯できることがあります。同様のオプションは、こくみん共済や都道府県民共済などでも用意されています。自己負担にはなりますが、月々100~200円程度の保険料で付加できます。

 契約内容によっては、すでに加入している保険に個人賠償責任保険が付いていることもあるでしょう。

 また、個人賠償責任保険でなくても、一部の事故は他の保険で対応できる可能性もあります。たとえば車を運転中の事故なら、自動車保険の対人賠償責任保険、対物賠償責任保険の対象になります。責任能力の無い認知症の人が起こした自動車事故で家族が監督責任を負ったときに、本人が加入している自動車保険がおりる可能性があります。

 賃貸住まいの場合には、賃貸用の火災保険(家財保険)の対象になるかもしれません。借りている部屋で水漏れや火災を起こしてしまったときには、部屋を復旧、修繕する費用を大家さんに賠償しなければなりませんが、その賠償費用が保険でおりる「借家人賠償」という補償です。同居している認知症の人が事故を起こし、家族が賠償責任を負ったときにも補償の対象になることがあります。

 認知症のご本人や、ご家族が加入している保険で、もしもの事故や賠償に備えられるかもしれません。お住まいの地域の制度とともに、確認しておくと安心です。


■加藤梨里(かとう・りり)ファイナンシャルプランナー(CFP®)、金融知力インストラクター、健康経営エキスパートアドバイザー、マネーステップオフィス株式会社代表。保険会社、信託銀行、ファイナンシャルプランナー会社を経て独立。専門は保険、ライフプラン、健康とお金。大学では健康増進について研究活動を行い、健康経営のコンサルティング支援をした企業が中小企業のトップ500「ブライト500」に認定。

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