【いまさら聞けない高血圧③】遺伝があっても生活習慣改善で回避は可能

 高血圧治療の第一人者である大阪大学大学院教授の楽木宏実医師に、「いまさら聞けない基礎知識」を解説してもらう連載の3回目は「遺伝」と「生活環境」について。「親が高血圧だから…」とあきらめている人は、これを読んで意識を変えるきっかけにしてほしい。

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 高血圧になる、ならない、を決める成因は、大きく2つに分けられます。1つは生活環境、もう1つは遺伝です。

 糖尿病や脂質代謝異常症を「生活習慣病」と呼びますが、高血圧も立派な生活習慣病です。塩分の摂り過ぎや運動不足、肥満など、生活習慣の乱れが血圧を高めていくのです。

 家庭ごとに「好みの味」があります。濃い味付けの料理を毎日食べ続ければ、当然その一家は揃って高血圧になっていくリスクを高めることになりますが、これは味付けを薄くすれば済むこと。努力次第で克服できます。

 一方の遺伝はどうでしょう。もしあなたの両親のうち、片方が高血圧でもう片方が高血圧でない場合、あなたやきょうだいが、高血圧になる確率は単純には5割程度です。

ただ、高血圧を引き起こす遺伝子は一つではありません。血圧に関与する遺伝子は数多く存在し、中には血圧を上げる遺伝子だけでなく、下げる遺伝子もあり、それらが組み合わさって作用していくのです。つまり、一つ一つの遺伝子の働きは小さくて、それらが合わさった時にどうなるか-が問題なのです。

 したがって、遺伝子だけでその人の血圧の推移を予測することは非常に難しく、現実的ではありません。

 とはいえ、両親が揃って高血圧なら、その子供はほぼ確実に高血圧になる素地を持っている-ということは事実です。その場合、子供は諦めるしかないのでしょうか。

減塩や運動が大切、必要に応じて薬の活用を

 そんなことはありません。たとえ高血圧の両親を持つ子供でも、減塩と運動を心がけるなど生活習慣に気をつかえば、高血圧を回避することはできます。

 ちなみに私の場合は、父は80代で亡くなるまで血圧は正常でしたが、母は高血圧です。したがって私が高血圧になる確率は単純には5割なのですが、立場上高血圧になるわけにはいきません。日頃から薄味を心がけることで、多少お腹は出てきたものの、血圧は正常値を保っています。

 ところで、高血圧は寿命に関係するのか-という問題があります。

 日本は世界に名だたる長寿国です。ならば高血圧の人は少ないのかと言えば、決してそんなことはありません。この連載の第1回でも述べましたが、血圧は高齢になるほど高くなる傾向があるので、長寿国でも一定数の高血圧の人は存在することになります。

 ならば高血圧でも何もしなくても長寿を全うできるのか-と考えるかもしれません。たしかに高血圧でも、血管を保護する力が強い人や、血圧以外に悪い因子が何もない人は、もしかしたら長生きできるのかもしれません。しかしそれは、死んで初めて分かること。賭けに出るのは危険です。

 ただ一つ言えることは、たとえ高血圧になっても、生活習慣を整え、必要に応じて薬を飲めば、長寿を全うすることは可能だし、実現している人はたくさんいる、ということです。

 「遺伝だから」「高血圧になって長いから」などとあきらめる必要はない。正しい取り組みを続けることが大事なのです。

 次回はその「正しい取り組み」を具体的に解説します。(構成・長田昭二)

■楽木宏実(らくぎ・ひろみ) 大阪大学大学院老年・総合内科学教授。1984年、大阪大学医学部卒業。89~91年、米ハーバード大学、スタンフォード大学留学。大阪大学助手、講師、助教授を経て2007年から教授。日本老年医学会前理事長。現在、日本高血圧学会理事長を務める。一貫して高血圧学と老年医学の臨床と研究に従事し、多くのガイドライン作成にかかわっている。

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