【いまさら聞けない高血圧①】将来の疾病予防へ今から治療を

 日常生活でよく耳にする病名でも、その病態についてはよく知らない-ということがよくある。その最たるものが「高血圧」ではないだろうか。自身の健康診断での数値や、患者数の多さから国民病であることは知っていても、「身近過ぎる存在」と「症状がない」ということもあって、対策にいまひとつ本気になれない人も多いようだ。

 そこで今週は5回にわたって、高血圧治療の第一人者で大阪大学大学院教授の楽木宏実医師に、「いまさら聞けない高血圧の基礎知識」について解説してもらおう。

 この記事に目がとまったご自身が高血圧かもしれませんね。そうでなくても、家族や友人、同僚などを見渡せば、1人や2人は簡単に高血圧の人を見つけることができるでしょう。それほど高血圧は身近な存在。現在国内で高血圧に該当する人は、約4300万人と推定されています。

 では、高血圧の人は増えているのでしょうか。じつは、年代ごとに見ると、高血圧の人の数は徐々に減ってきています。加えて、「日本人全体の平均血圧」を見ても、やはり少しずつですが低下傾向にあります。

 ならば患者の総数も減っているのかと言えば、残念ながらそう簡単な話ではありません。人間は加齢とともに血圧は高くなる傾向があるので、「高齢化」「長寿化」が進むことで、どうしても高血圧の人は増えていきます。

 つまり、現在の日本では、若い世代の高血圧は減少傾向にあるものの、国民全体として見たときは、減っていない-ということになるのです。

 しかも、現在は高血圧ではない若い人が、生涯にわたって血圧を安定して維持できる確証はどこにもありません。高齢化と高血圧はセットで考える必要があるのです。

脳卒中、心臓疾患だけでなく、認知症との関連も

 ところで、高血圧はなぜ治療しなければならないのでしょう。血圧が少しくらい高くても、痛くも痒くもありません。症状がないのに薬を飲んだり、食生活に気を付けることに疑問を感じる人もいます。

 たしかに200を超えるような極端な高血圧になると頭痛や吐き気などを催すこともありますが、基準値(上が140、下が90)を多少上回る程度の高血圧では自覚症状はありません。

 高血圧の治療をする目的を一言でいうと、「近い将来大きな病気にならないため」となります。

 ここでいう「大きな病気」とは、脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血など)や心血管障害(心筋梗塞、狭心症、心不全など)、腎臓病などを指しますが、最近では認知症との関連も指摘されるようになってきました。

 欧米では高血圧が最も関与する疾患は心筋梗塞ですが、日本では脳卒中にもっとも関係するとされています。

また近年は、心不全を繰り返すことで死に至る高齢者の多くが、背景に高血圧を持っている、とする報告も出ています。

 高血圧は、命に関わる重大疾患の発症因子にも、増悪因子にもなり得る危険な病態だ-ということは確かなのです。「症状がないから」と無視したり軽視したりすると、ある日突然命を落とすことにもなりかねない-。その「ある日」とは、10年後か、20年後かもしれないし、もしかしたら「今夜」なのかもしれません。

 それを未然に防ぐには、高血圧と診断された時点で、的確な取り組みをスタートさせる必要があるのです。

■楽木宏実(らくぎ・ひろみ) 大阪大学大学院老年・総合内科学教授。1984年、大阪大学医学部卒業。89~91年、米ハーバード大学、スタンフォード大学留学。大阪大学助手、講師、助教授を経て2007年から教授。日本老年医学会前理事長。現在、日本高血圧学会理事長を務める。一貫して高血圧学と老年医学の臨床と研究に従事し、多くのガイドライン作成にかかわっている。

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