【「70歳定年」どう生きるか】残酷な70歳就業法 老化の抑制には限界

60歳から「運動六分」「腹八分」「睡眠十分」 

 この4月1日から「70歳就業法」が施行され、事実上定年が消滅するとともに、65歳を超えて70歳まで働けるようになりました。いくら働けるといっても健康次第。いまの65歳はかつての75歳と言われますが、それは平均寿命が伸びたための誤解。私たちは、確実に老化していきます。

 最近は老化を抑える、つまりアンチエイジングの研究が進んでいますが、生理的な老化は、34歳、60歳、78歳で急激に起こると言います。

 米スタンフォード大の研究チームは、18歳から95歳までの4263人から得た血液サンプルを用いて血漿(けっしょう)タンパク質を分析し、その結果、そうした結論に達しました。生理的老化は、徐々に進むのではなく、ある時点で急激に進み、その後一定期間を経て、また進むのです。

 となると、60歳で大きく進んだ老化は、その後一定期間進まないのかもしれません。その点で、70歳まで働くことは合理的かもしれません。しかし、多くの高齢者は、働かなくてすむならそうしたいと思っています。

 近年は長寿遺伝子と言われる「サーチュイン遺伝子」の研究が進み、寿命は伸ばせることがわかってきました。実証実験も行われています。長寿遺伝子は空腹になると目覚め、細胞中のミトコンドリアを活性化させてエネルギー効率を高め、活性酸素の害を防ぎます。そうなると、免疫力は低下しなくなり、抗がん作用が高まります。こうして、老化が抑制されるのです。

寿命の限界は120歳だが…

 しかし、いくら長寿遺伝子を活発化させても、限界はあるといいます。

 老化に関しては、有名な「ヘイフリックの限界」という壁があります。これは、米ウイスター研究所のL・ヘイフリック博士が発見したもので、細胞分裂には限界があり、それは50~60回。限界に達した細胞は「老化細胞」と呼び、老化細胞が増えることで老化は進みます。つまり、老化は生命にとって必然なのです。現在のところ、人寿命の限界は、120歳だと言われています。

 政府が提唱する「人生100年」を考えると、理にかなっていて、70歳まで働くことができるようにしたことは、高齢者にとっていいことのように思えます。

 しかし、120歳は限界で、どんなに医学が発達しようと、80~90歳で平均的な寿命の限界が来ます。人は老い、健康な状態では生きられなくなります。これを無視している点で、この政策は残酷です。こんなことを政府が言い出したのは、高齢になっても働かなければ暮らせない人々をたくさんつくり出してしまったからではないでしょうか。

“気持ち十二分”気を若く持つことも重要

 最近よく言われているのが、主観年齢が若いほど、老け込まないということです。「主観年齢」というのは、自分が思っている年齢で、たとえば「実年齢」が65歳なのに、〈自分はまだ若い、50歳のときと変わりない〉と思っている人がいるとします。その一方で、同じ65歳で〈自分は65歳の年相応だ〉と思っている人がいます。

 両者を比べると、主観年齢が実年齢より若い人間は、いわゆる年相応になるのが遅く、また、死亡リスクや病気リスクが低いというのです。したがって、65歳を超えても仕事を続けなければならないなら、気を若く持つことが重要です。

 私は、60歳からの健康法として「運動六分」「腹八分」「睡眠十分」を提唱しています。このうち、「腹八分」は長寿遺伝子の研究からも裏付けられています。ここに、「気持ち十二分」を加えたら完璧ではないでしょうか。

■富家孝(ふけ・たかし) 医師、ジャーナリスト。1972年東京慈恵会医科大学卒業。病院経営、日本女子体育大学助教授、新日本プロレスリングドクターなど経験。「不要なクスリ 無用な手術」(講談社)ほか著書計67冊。

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