【「70歳定年」どう生きるか】政府やメディアは勧めるが…75歳への年金受給繰り下げは得なのか? 

 「70歳就業法」(「高年齢者雇用安定法」の改正)では、同時に年金法も改正され、受給開始年齢が2022年4月から65歳から75歳までに拡大することになりました。75歳まで繰り下げての支給を選ぶと得だ、と政府やメディア、評論家は、繰り下げ支給を勧めています。

75歳は健康の限界点

 しかし、これは医者の視点でみると、よくできた嘘としか思えません。なぜなら、75歳というのは、現在のところ、私たちが健康でいられる限界点だからです。現在、「健康寿命」は、男性が72・12歳、女性が74・79歳です。これ以後、私たちは健康でなくなる可能性が高いのです。

 持病をかかえ、治療に通いながら生きる。あるいは、認知症が始まる。そんなときから、年金を受け取って、なにが得なのでしょうか。「得」だとする言説では、こう理由が述べられています。

 《人生100年時代は、定年後の時間が現役時代と同じくらい長い。そのため、できる限り多く年金をもらわなければ、安心して暮らせない。したがって、年金支給を最大限の75歳まで繰り下げるべきだ。75歳まで繰り下げると、月額で最大84%の増額になる》

 年金は、65歳から受給できますが、これを10年間繰り下げろと言うのです。また、70歳まで繰り下げると42%の増額になるとも付け加えます。これを具体的に見ると、たとえば、65歳の受取額が月額20万円(年額240万円)の人が70歳まで繰り下げた場合、月額28・4万円(年額340・8万円)になるそうです。

 では、どれくらいの生活費を見込めば、安心して暮らせるでしょうか?

 2年前、「老後2000万円不足」が大問題になりました。このとき示された概算では、月の実支出が約26万円、それに対して年金支給が約21万円で、月額にして約5万円が不足する。これを、65歳から95歳の30年間にならすと、約2000万円が不足となるということでした。

 なるほどと思いましたが、私が注目したのは、この実支出の中で、保険医療費が約1万5000円計上されていたことです。これは、低すぎないかというのが、正直な私の見方だったからです。いまや、男性は3人に2人ががんになる時代です。また、75歳以上の後期高齢者は4人に1人が要介護認定を受けています。そういうことを考えると、いくら保険適用があり、高額療養費制度があるといっても、年金だけではとてもまかなえません。それで、繰り下げ支給を選択し、少しでも多くもらうべきだと言うのです。

税・保険料の負担は370万円増?

 ところが、もう忘れてしまったかもしれませんが、昨年4月、「75歳就業法」が国会審議されていたとき、共産党の宮本徹議員が、「75歳繰り下げで月額84%増」はトリックにすぎないと指摘したのです。

 《65歳から月額15万円を受給した場合、税が約1800円、国民健康・後期高齢者医療保険料が約4000円かかるのに対し、75歳に遅らせると年金が月額27・6万円になるので、税が約1万9000円、後期高齢者医療保険料が約1万7000円もかかる。平均余命の87歳で計算すると、約370万円の税・保険料の負担増が生じる》と言うのです。

 さらに質疑では、年金担当局長が、税・社会保険料を控除すると、75歳から受給した場合、受給総額で65歳から受給していた年金額を上回るのは90歳0カ月であることを明らかにしたのです。

 「70歳就業法」が施行されても、65歳から年金は受給できます。ならば、即座に受給したほうが得ではないでしょうか。

■富家孝(ふけ・たかし) 医師、ジャーナリスト。1972年東京慈恵会医科大学卒業。病院経営、日本女子体育大学助教授、新日本プロレスリングドクターなど経験。「不要なクスリ 無用な手術」(講談社)ほか著書計67冊。

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