【「70歳定年」どう生きるか】「70歳就業法」で死ぬまで働くことに!? 

「高齢者は働くことを望んでいる」政府の“美しき嘘”

 この4月1日から「70歳就業法」(正式には「高年齢者雇用安定法」の改正)が施行されました。事実上定年がなくなり、「ハッピーリタイア」「余生」などという言葉は、ほぼ死語になったと思っています。

 「70歳就業法」は、ひと言で言うと、希望する社員が70歳まで働けるように企業に努力義務を課すというもの。努力義務とはいえ、ほぼ強制です。そのため、企業は、現在65歳とされる定年制を廃止するか、定年を繰り上げるか、あるいは定年後も雇用を続けるなどの対応をせざるを得なくなりました。

 ついこの間まで、定年は65歳でした。それがいきなり70歳。しかも、今回は働くといっても、業務委託でもいいので、その場合は会社との雇用関係はなくなります。

 つまり、労災や雇用保険の対象外となり、年末調整がなくなって確定申告が必要となります。労働法の保護は受けられないし、過重労働を防ぐための労働時間規制も、最低賃金も適用されません。事故に遭っても労災による救済が不十分なうえ、社会保険料の事業主負担もなくなります。

 政府は「70歳まで働けます」「人生100年時代の新しい働き方」などとしていますが、表向きの話に過ぎません。

 私たち医者には、定年がありません。医師免許を持っている限り、いつまでも医者として働くことが可能です。だからといって、知力も体力も落ちれば、続けるのは不可能です。とくに外科医などは体力勝負なので、さすがに65歳を超えれば引退を考えます。

 会社員の場合も、はたして、これまでの通りの仕事が続けられるものなのでしょうか?

 政府もメディアも、高齢者が働き続けることを歓迎しています。いつまでも若くて元気であることが、奨励されています。しかし、多くの高齢者は、働かないで暮らしていけるなら、働きたくないはずです。ところが政府は、「高齢者はみな引退を望んでいない。いつまでも働くことを望んでいる」と言うのです。

 総務省の「就業構造基本調査」によると、「働きたいが働いていない高齢者」の割合は、60~64歳は15%、65~69歳は22%、70~74歳は27%と、年齢が上がるにつれ高くなっています。こうした調査をもとに、政府は「高齢者は働く意欲はあるものの、雇用の受け皿が整備されていない」として、今回の法改正をしたと説明しています。

「働かなくてすむなら働きたくない」がホンネ

 しかし、私に言わせれば“美しき嘘”です。医療現場で多くの高齢患者と接してきましたが、高齢者の本音は「働かなくてすむなら働きたくない」です。ただ、調査ではそんなことは言えません。「働かないと食べていけない」「年金だけではやっていけない」などとは言わず、単に「働きたい」と答えるのです。

 「70歳就業法」が施行される前の厚生労働省の調査では、70歳以上の高齢者が働ける制度を設けている企業数は、全企業の31・5%、約5万社でした。このうち3割以上が中小企業で、たとえば町工場などでは、慢性的な「人材不足」からそうしていたのです。ここに、「70歳就業法」が導入されたというわけです。

 人間、65歳を過ぎると老化のスピードは早まります。現在、「健康寿命」は、男性が72・12歳、女性が74・79歳。昔に比べ、いまの高齢者はたしかに元気です。しかし、70歳まで働けば、その後のわずかな期間しか健康で元気に暮らせません。「生涯働き続けで死ね」と言っているのに等しいのではないでしょうか。どう対処するべきか。次回に続きます。

■富家孝(ふけ・たかし) 医師、ジャーナリスト。1972年東京慈恵会医科大学卒業。病院経営、日本女子体育大学助教授、新日本プロレスリングドクターなど経験。「不要なクスリ 無用な手術」(講談社)ほか著書計67冊。

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