【さかもと未明画伯のアート超入門】「好きな人への叶わなかった思い」を歌ってるんです!

 漫画家にして作家。時には世間を騒がす話題も振りまきつつ、アスペルガー症候群、膠原病など度重なる病を乗り越え、歌手に画家などアーティストとして進化し続ける筆者が「芸術のお手ほどき」という新境地に挑戦します。

借り物「カセット」でポップスの洗礼

 皆さん、先日は私の切ないアート事始めについてお話ししをさせていだたきました。今日は、私がなぜ、40歳過ぎて突然「ジャズ歌手を目指そう!」と思ったのか、そのあたりのお話をさせてください!

 私の家庭に音楽の素養がなかったのはわかっていただけたと思います。なんたって、私が15歳だった昭和55年頃、ステレオさえなかったんです。あるのは幼稚園の子供向けソノシート(今の人は知らない、雑誌のおまけ等についていた、セルロイドのべらべらの薄っぺらいレコードです)を聞くのが精いっぱいな、テントウムシの形のレコードプレーヤーだけ。後にカセット・プレーヤーをさんざんねだって買ってもらったからショボショボな環境です。

 当時日本は高度成長を終え、さらに豊かな時代へ移ろうとしていました。ニュートラやトラッドが流行する一方、女子はanan、男子はPOPEYE片手に、トラッドを超えるおしゃれを目指していた、そんな時代です。

内気な少女時代の私。友人から音楽カセットを借りて音楽に目覚めました

 その頃はちょうど、レコードからCDへの移行期で、音楽に興味のある家庭で育っている友人たちは「CDとレコードは音がどう違うか」なんてことを議論。スピーカはパイオニアだ、いやビクターだ、ソニーだと、互いの家のスピーカー自慢に興じるような、そんな時代でした。私が全く茅の外だったのは勿論(涙)

 でも、よくしたもので、「どんな音楽を聴くの好きなの?」なんて聞いてくれる友達がいたんですね。一人は大親友の女の子、あとは数人の男の子。みんなインテリで、クラシック、からロック・ジャズまで論じていたので、私は「さだまさしが好きです」とは言えず、モグモグしてうつむきます。そして「うちにはステレオがないから、よくしらないの」というと、みんなが「あっそうなの? カセットなら聞ける?」なんていって、色んなカセットをプレゼントしてくれました。嬉しかったなあ。  

「セシルの週末」のような恋に憧れ

 かくして私はニューミュージック、ビートルズ、そして少し前のフォークなど、色んなポップスの洗礼を受けたのです。さだまさしやグレープは今でも大好きですが、それ以外知らなかった内気で暗い、自信のない私には、それは劇的な経験でした。当時貰ったカセットは、みんな箱に入れてしまってあります。

 「かっこよすぎておしゃれ」な世界観にとっぷり浸かった私は、勉強そっちのけでユーミンのカセットを聞き、「セシルの週末」みたいな恋がしたいと夢見ました。でも鏡を見ると、キタローカットの冴えない女子高生がいるだけ、、、。。私は現実の恋はすぐ諦め、恋をしたこともないのに、オフコースの「さよなら」を聞いて別れの切なさをイメージし、泣きました。今の「恋愛も結婚もしない若者」を非難なんかできない、オタクな高校生。

オタクな女子高生でした

 でも、当時の受験校の高校生なんて、そんなもの。。町には「You&愛」というCDレンタルショップができ(TSUTAYA=1983年創業=はまだなかった)、ボーイフレンド未満の男友達にレクチャーを受けながら気になるアーティストを探したり、帰りにシャノアールでコーヒーを飲むだけで、すっごい幸せでした。当時でき始めたデニーズなどのファミレスも「いつか行ってみたい」憧れの場所。日本自体がおぼこかったんです。

大学時代に「ジャズ名盤」の洗礼

 そんな私も、やがて大学生になることが出来ました。親には「お金がないのに何でそんなお嬢さん学校に?」と憤られましたが、唯一私を推薦で引き受けてくれた玉川大学に行きたくて、私は頭を畳にこすりつけて「通わしてください」とお願いしました。結果的に行って本当によかった素晴らしい大学です。

 大学時代はバイトと勉強に明け暮れ、バブル前夜の社会に背を向けて、ほとんど遊びませんでしたが、そんな私にも楽しめそうな「原文読解愛好会」みたいな、非公式な読書会に入りました。お金もかからなそうでいいなと入ったのですが、大学院生と一緒になって、ウィリアム・ブレイクやシェイクスピアの原典を読んだり、ロマン派の原文詩を暗唱して遊ぶという、なんとも変わった同好会でした。

ジェリー・マリガン「ナイト・ライツ」に衝撃

 ボスみたいな大学院生の先輩がいる下宿に毎週4~5人が集まり、二時間くらい本気で英文解釈をして、終わると先輩の弾くギター伴奏で、ビートルズや色んな洋楽やPOPSを歌いました。いやあ、マジで楽しかったです。今私が少し英語を話し、歌えるのは、間違いなくこの同好会のおかげ。

 そしてそこで私は遂に、ジャズの「名盤自慢」の洗礼を受けるのであります、

 聞いてわたしが最もショックを受けたのが、ジェリー・マリガンの「ナイト・ライツ」。これ、本当に名盤なんですよ。「マリガンはサックス奏者だけどピアノも弾いて、ジム・ホールのギターがまた恰好いいんだ」なんて解説をうっとり聞きながら聞いたサウンドは、ニューミュージックをはるかに超えて、私の心をがっちりつかみました。とにかくかっこよさのグレードが半端なかった!

ボディコンデビュー

 マリガンの次はマイルス・デイビスの「死刑台のエレベーター」のサントラ。後に付き合った年上の彼氏から私は、ヌーヴェル・ヴァーグやフィルム・ノワールなどの薫陶を受けることになりますが、その種はこの時に撒かれたんですね。さらにジュリー・ロンドンやヘレン・メリルなどのボーカリストのハスキーヴォイスとファッションにもノックアウト。憧れの先輩が絶賛する彼女たちのようになりたくて、前髪を伸ばしてワンレングスにし、少しでも痩せるように努力して、ついにボディコン・デビューを果たしました。憧れの先輩が絶賛する「大人の女」になりたくて、とにかく努力をしたものです、

オノ・ヨーコに「訴える力」を教わる

 さらに私を変えたのは、オノ・ヨーコ。ジョンとヨーコの恋物語と共に紹介されたオノ・ヨーコの「Walking on thin ice」は、私の人生の師となったと言っても過言ではありません。このCDとオノ・ヨーコさんの生き方は、私に、「自分の思う通り生きていい」「人に何を言われて関係ない」「歌はうまいとか下手でなく、パワーと、訴える力だ」ということを教えてくれました。

 でも、私はヨーコさんみたいな強い声を持っていません、そんな私でもできそうな、ジェーン・バーキンの「囁きボーカル」に出会えたのも福音でした。これも、「歌って、、雰囲気でなんとかなる!」と、私に一筋の光明をくれました、要するに芸術とは巧緻でなくて個性だと。

結局、振り向いてくれなかったけど、、

 いまだから告白できますが、「好きな男が好きな音楽」に惚れたのです! 「好きな男のほめる女」になりたかったのです! かくしてわたしの人生の目標は、オノ・ヨーコのように強いアーティストになり、ジュリー・ロンドンみたいな大人の色気のある女性になることとなりました。とはいえそれを実現する言い訳を得て行動に移すのは、それから25年も経ってからなのですれどね。まあ、ローマは一日にしてならず、芸術の芽が芽吹くまでに、蝉のように地中深く憧れを温めていたわけです。が、、、、

 結局その先輩が私に振り向いてくれることはありませんでしたが、卒業式の時、「お前にやるよ」と、ナイト・ライツのレコードをくれました。これは、度重なる家出と引っ越しの繰り返しの中でなぜか失くしてしまうのですが、長いこと私の心の支えでした。

 41歳で膠原病になり、43歳で余命宣告をされてから、周りの反対と嘲笑をよそに私がジャズシンガーを目指したのはそんな訳であります。私はきっと、大好きだった先輩との時間を取り戻したかったんですね。いってみれば音楽で人生が変わってる。そしてそれははっきりと「好きだった人への叶わなかった行き場のない思い」に繋がっているんです。行き場なくたまっちゃった恋心を、吐き出したのが私のボーカル活動でした。

ぜひ見てください! 私がカバーしたジェーン・バーキン「Baby Alone In Babylone」です!★チャンネル登録もよろしく!

ぜひこちらも聴いてください「la magie de l’amour」

音楽を始めてよかった

 私の場合、結局は「恋心」が芸術への扉を開けました。それが邪道かどうかはわかりませんが、ゆるぎないのは「音楽を始めてよかった」ということです。我ながら、変われた自分が嬉しいし。素敵な仲間に次々あえて、【成功しようがしまいが、音楽できるだけで幸せ!】と思っていますから。

 ■さかもと未明(さかもと・みめい) 漫画家、作家。1965年横浜生まれ。神奈川県立厚木高校卒。玉川大学英文科卒業後、商社勤務を経て漫画家に。その後、評論活動やテレビ出演も多くコメンテーターとしても活躍、歌手デビューも果たす。2007年に膠原病と診断され、発達障害だったことも明らかに。画家としても本格的な活動を開始した。

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