【ロングセラーを読む】司馬遼太郎著「最後の将軍 徳川慶喜」

「最後の将軍 徳川慶喜」(文春文庫)

大河で再注目「天性の役者」劇的な生涯

 将軍の座にあったのは1年と少し。15代を数える江戸幕府の将軍中、最も短い在位期間にもかかわらず、徳川慶喜(よしのぶ)の存在感は極めて大きい。放送中のNHK大河ドラマ「青天を衝(つ)け」でも主人公、渋沢栄一(吉沢亮さん)が仕える主君として草彅(くさなぎ)剛さんが演じ、物語で重要な役割を担っている。

 文芸春秋によると、昭和42年に単行本が発行され、49年に文庫化。平成9年にはそれぞれ新装版が出た。累計発行部数は240万3千部で、ドラマの放送以降も5回の重版がかかった。

 本書の主人公、慶喜は将軍家の分家である水戸藩に生まれるが、「神君(徳川家康)の再来」と期待されて本家を継ぐ。就任後は朝廷に政権を返上する「大政奉還」という歴史的偉業を成し遂げた一方で、戊辰戦争の発端となった鳥羽・伏見の戦いでは配下を戦場に残したまま江戸に戻る。見る角度、取り上げる人によって慶喜の評価は大きく異なる。

 著者の司馬遼太郎さんにとっても、とらえどころのない存在だったのだろう。あとがきで<徳川慶喜という私のこの対象には、素材そのものがすでに酒精度の高い、ひとを酩酊(めいてい)させるものをもっているがためのように思える>と記している。

 物語では、慶喜の多芸多才ぶりを示す事跡を示しつつ、期待を寄せていた周囲が慶喜に冷めていくさまを描き出している。例えば、福井藩主の松平春嶽(しゅんがく)にこう言わしめている。「つまるところ、あのひとには百の才智があって、ただ一つの胆力もない。胆力がなければ、智謀も才気もしょせんは猿芝居になるにすぎない」

 その「芝居」こそ、司馬さんの慶喜像だったのかもしれない。得意の弁舌をふるうシーンで<つねにその効果は劇的であった。この点でも、慶喜が天性の役者だったのであろう>と記している。卓越した役者だったゆえ、人々は酔わされ、慶喜の真の姿を見えにくくしているのではないか。

 本書はさまざまなエピソードをちりばめ、複雑怪奇な人物を俯瞰(ふかん)的に読み解いてそのドラマチックな生涯を写し出す。時代を経ても色あせない物語の面白さ、歴史をひもとく知的興奮がこの一冊に凝縮されている。

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